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第三十一回 ワイヤーチェア

椅子の機能で大事な要素の一つが、座り心地なのは言うまでもない。でも、自分の中でそれと同じくらい、いや、時にはそれ以上に大事な要素として「座ってない時の佇まい」というのがある。
特に、自宅のダイニングの椅子の場合、座っている時間よりも座っていない時間、例えば帰ってきた時にまず目に入ったり、キッチンやリビングのソファから眺めたりする時間の方が長いかも知れない。
極端な話、座り心地がそんなに良くなくても、見た感じが格好よければある程度許せるが、その逆で見た目が気に入らなければ、どんなに座り心地が良くてもあまり欲しいとは思わない。まあ、得てして佇まいの素敵な椅子は座り心地も良い場合が多いし、その逆もまた然りである。

座り心地はそんなに良くないけど、見た目が格好良い椅子といえば、まず思い浮かぶのがイームズの「ワイヤーメッシュチェア(DKR)」である。
イームズの中でも、大好きな椅子だけど、この椅子に長時間座って仕事をしたり、食事をしたりしようとはあまり思わない。特にパッドが無い場合、長く座っていると、ワイヤーが段々お尻や太ももに食い込んだり、当たったりしていちいち痛い。でも、そんな事を帳消し以上にするくらい佇まいが素晴らしい。ただただ格好良いし、この椅子があるだけで、その部屋の景色は一変する。基本的に、椅子は座ってなんぼというのが持論だが、数少ない例外がこの椅子である。

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イームズのワイヤーメッシュチェア

ワイヤー素材の椅子絡みで言えば、少し前、とあるご縁で1脚の椅子を手に入れた。ハリー・ベルトイアの「ダイアモンドチェア」。同じベルトイアの「サイドチェア」はすでに持っていたけど、このダイアモンドチェアはデザインが少し彫刻的過ぎる気がしていたのに加え、そもそも価格も高くて手が届かなかった1脚である。実際に手に入れてみると、デザイン自体の素晴らしさはもちろん、複雑な構造に対してディティールのシンプルな収め方や、その座面高のせいかイームズのそれよりはるかに良い座り心地に驚く。

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ベルトイアのダイアモンドチェアとサイドチェア

ハリー・ベルトイアは、1950年頃イームズなんかと同時期に活動していたデザイナー・彫刻家で、スタッフとしてイームズのオフィスにいた事もある。で、その時に深く関わっていたのが先述のイームズのワイヤーメッシュチェアなのだ。 なので、ダイアモンドチェアとワイヤーメッシュチェアは兄弟というか親戚のような間柄と言っていいかも知れない。

ただ、ベルトイアはイームズオフィスにいた頃から、いくら貢献しても自分の名前がクレジットされない事が不満だったようだし、独立後もノール社から発表されたこのダイアモンドチェアがその製造技術を巡ってイームズのワイヤーメッシュチェアを扱うハーマンミラー社と訴訟沙汰にまでなり、ノール社が敗訴してしまうという不遇ぶり。でも、ベルトイアの一連の作品はその後沢山売れたようだし、何よりワイヤーチェアに関する彼の功績は計り知れない。

そんなこんなで、こじれてしまったイームズとベルトイアの仲だけど、数十年経った現在、我が家で仲良く並んでいる。もちろん、デザインの相性の良さは言うまでもない。あまり座ることはないけれど・。

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著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。