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アンチがいてこその人気者

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『café sweets』2001年4月号「カフェの魅力は何ですか?」
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『café sweets』2001年5月号「コーヒーを極める」
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『Hanako WEST』 2001年6月号「京阪神ベストカフェ194店大特集」
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『カフェ・スタイル2 バッカフェ』 2001年12月
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『サイゾー』2001年11月号 「『カフェ』もうおなかいっぱい。」

 世紀が変わって2001年。カフェを扱う雑誌の動向にも大きな変化が現れました。その動きを象徴したのが、柴田書店の『café sweets』の創刊です。前身は、1970年から93年まで続いた専門誌の草分け『喫茶店経営』。8年ぶりのリニューアルとなる『café sweets』と同時に、往時のライバルだった旭屋出版の『喫茶&スナック』も『カフェ&レストラン』として新創刊(ちなみに柴田書店からは1970年に『ドライブインモデル経営』なるピンポイントな専門誌も創刊されていた!)。情報誌ではなく食の専門誌による、名物雑誌の“復活”のインパクトは、カフェが単なるブームを脱して本流として浸透したことを体現すると同時に、形は違えど、かつての喫茶店全盛時代の再来を予感させるものでした。
その『café sweets』の創刊号は、ズバリ「カフェの魅力は何ですか?」なる特集から。巻頭でこの問いに応えているのが、沼田元氣さん。
「得も云われぬもてなしが、味や接客となって、居心地の良さにつながってゆく。そうして、それをかぎつけ、こここそ自分の居場所だと感じ取ってやってくる店。そんな店や人々のたたずまいがカフェブームの秘密ではないかと思うのです」。
曰く、カフェとは、「素敵な退屈」を求めて訪れる人々が集う場である、と。その“場”の代表として冒頭に登場するのが、『バワリーキッチン』の2号店『ロータス』と、すでに6店まで広がった『ニドカフェ』のグループ店。片や「30分待っても入りたい」最先端の“東京の食堂”。片や、バラバラの中古家具を配した隠れ家的な「癒し系」の元祖。「素敵な退屈」の動と静の代表格を筆頭に、『DeixeeDiner』『WIRED CAFÉ』『Café Apres-midi』『FLOOR!』『オーガニックカフェ』と、いまや老舗となった当時の“顔”が揃います。また、関西からも10数店が登場。今はなき神戸の『カフェブッフォ』(看板犬のしじみちゃん!)や『チャルカ』など、「手作り」をキーワードにした店に続き、『トリトンカフェ』や『efish』、火災から復活した『イノダコーヒ』も。見出しや文中には「自分の感性」「日常の延長」「仕事を楽しむ才能」といったワードが随所に見られ、職業としてのカフェにもスポットが当たり始めたのは、専門誌の復活が大きく影響しています。
とはいえ、創刊号のお店の顔ぶれは当時としては、定番のラインナップ。『café sweets』が専門誌として本領を発揮したのは、第2号「コーヒーを極める」。ここに来て、ようやくコーヒーが特集テーマに掲げられます。
 「コーヒーは今や日常生活になくてはならない“食品”です。しかしあまりにコーヒーが身近なものになりすぎて、その実体に無関心になってはいませんか。コーヒーとはいったいどんな食品なのか。コーヒー豆という農産物について、コーヒー豆の種類、焙煎の手法、挽き方、抽出の仕方、コーヒーの味わい方まで、さまざまな角度からコーヒーを研究します」。
比べるのは大変おこがましいですが、前々回で紹介した『marie=madeleine』が目指したところが、まさにこれ。当時、よくぞやってくれました、との思いもありました。扉の「コーヒーの味の違いが分かりますか?」との問いかけに応えるのは、『大坊珈琲店』『六曜社地下店』『サザコーヒー』『珈琲工房ホリグチ』、島根の『サルビア珈琲』など、錚々たる重鎮たち。焙煎からグラインド、抽出、豆のエイジングに至るまで、50P近くを展開。さらに『カフェバッハ』田口護さんによるカフェ経営論へと続く重厚さは、専門誌の面目躍如。当時、すでにスペシャルティコーヒーが入ってきていたはずですが、名称としては登場せず、豆の産地紹介でも国別に留まっています。ただ、今になって見つけた「コーヒー豆は生鮮食品」のフレーズに、変化の兆しが読み取れます。
 カフェ情報のメインストリームを牽引していた『Hanako WEST』も、2001年6月号「京阪神ベストカフェ194店大特集 あの店(カフェ)、行った?」で、関西のカフェ総集編的な誌面の中に「コーヒーが香る、古き良き喫茶店」なるカテゴリーが登場。今までカフェと一括りにされがちだった喫茶店も、“コーヒー枠”というべき立ち位置が定番になってきます。ところで、この年は、沼田元氣さんの『ぼくの伯父さんの喫茶店学入門』、川口葉子さんの『東京カフェマニア』、木村衣有子さんの『京都カフェ案内』など、カフェ本の“古典”とも言うべき書籍も相次いで登場。とりわけ沼田さんは、これ以降、「ぼくの伯父さん」シリーズとして、『喫茶店百科大図鑑』『東京喫茶店案内』『札幌・小樽喫茶案内』と続々手がけ、「カフェ=乙女系純喫茶」路線を開拓。レトロな喫茶店への注目も高まり、カフェの浸透と共に「喫茶趣味」ともいうべきジャンルも認知されていきます。
 一方で、『カフェ・スタイル2 バッカフェ』では、表紙に「近頃、男が入れるカフェがないとお嘆きの貴兄に。」と言う見出しで、男子向けカフェを紹介。「“大人の男が一人で入れる”魂のあるカフェ」を謳いつつ、店の顔ぶれは他誌とそれほど変わり映えないのですが、女子に偏りすぎた流れに対して「男が行けるカフェ」を問う雑誌は以後も定期的に登場します。
さらに。いつの時代もアンチはいるもので、男女の問題など飛び越えて、カフェの存在そのものにモノ申したのが、『サイゾー』の「カフェもうおなかいっぱい」と題された小特集。その冒頭には、「カフェめしにボサノヴァにイームズチェア、右向け右のブームはもういらない! …というわけで『いいかげんにして、カフェ』特集です」。『BRUTUS』とは、また違う切り口のシニカルな煽りですが、むしろ『サイゾー』にまで取り上げられるほど、大きな流れになったことに、感慨深いものがあります。
 最初の対談では、カフェを「大手資本」、「ゆるゆる」、「自称エッヂ」と3つのタイプに分類。言い方は別として、「素敵な退屈」を求める人々の層も違うのは当然で、傾向の分析は確かに納得。いまや知る人も少ないですが、「サザビー」の貢献も忘れてならないところ。(『アフタヌーンティールーム』は知っていても、『スターバックス』を当初、サザビーが運営していたのは知らない人も多いのでは)。「カフェが好きなんじゃなくて、そこに行くことがステータスだと思ってるんでしょ」との発言は、すべてではないですが耳が痛いところ。とはいえ、ある意味で客観的な声でもあり、カフェのライフスタイル化がもたらしたクラス化が示唆されています。
そして、対談の締めはこうあります。「今はみんな「そのゆるさがいい」なんて言ってちやほやしてるけど、それは時代の価値観でしかない。(略)10年後、「カフェブームってあったよねえ」なんて笑いの対象になっていないよう、祈るばかりだね」。確かに、「カフェブームってあったよねえ」と言うことはありますが、心配自体は杞憂だったようで。「時代の価値観」に合わせて脈々とこの流れが今に続いていようとは、まさか思うまじ。


著者プロフィール
月刊連載『棚からプレイバック』毎月7日公開
icon_amaniga田中慶一(たなかけいいち)
珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』(@amaniga1)編集人。
1975年生まれ。関西で文筆・編集・校正業の傍ら、コーヒー好きが高じて、喫茶店の歴史から現在のカフェ事情まで独自に取材。訪れたお店は新旧合わせて900軒超。現在、全都道府県1000軒訪問を目標に活動中。2013年から「おとな旅・神戸」http://kobe-otona.jp/ で、コーヒーをテーマにした街巡りの案内人を務める。2017年に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)http://kobe-yomitai.jp/book/518/ 制作を全面担当。『甘苦一滴』のバックナンバーDL販売はこちらhttps://amaniga.base.ec/ 。