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音楽のキキカタ(その6)

映画「ボヘミアン・ラプソディ」。1970-80年代の時代背景とともに、当時の音楽に心酔する自分は、ラストのライブシーンで歌詞の一語一句を聴きながら自然と涙が出てきた。

音楽のキキカタと題して一番はじめに書いた、音楽が好きだという20代の後輩の「CDよりもYOUTUBEのほうが音が良いから、わざわざCDを購入することもない」という言葉。その言葉の前提を補足すると、YOUTUBEで見たアカペラグループの一発ステレオ録音の臨場感の方が、加工されて作り込まれた同じアーティストのCDの音よりも、スマホで聞く場合、とても馴染みやすかったのだ言う。実際に音楽のジャンルにもよるが、素晴らしいステレオ録音は、多重録音されたCDよりも臨場感を持つことも多くあるのだが、実際その後輩はアカペラグループの演奏をライブで観たこともなく、生の音楽の音に対する原体験が非常に少ないながらも、感覚として評価している点に、本来「音を楽しむ」とは、その位感覚的なもので良いのかもしれないと感心したのだ。
ただ、一言に音が良いと言っても、そこにはここまで書き連ねてきた通り長い物語があり、特にレコーディング技術の発達した1960―70年代には、優れたエンジニアたちが、アーティストとともに少ないレコーディングトラックに創意工夫を凝らし、原音再生というレコード芸術の中に入れ込み、そしてリスナー自身もそれぞれの原体験をもってその再生される音の一音も聴き逃さないように真剣に聴き向き合ってきたこともまた事実である。そう言った意味でもスマホでYOUTUBEだけでなく、多くの人が多様な音の原体験を増やすことができたら、さらに「音を楽しむ」事ができるのではないかと思う。

映画「ボヘミアン・ラプソディ」を、ある解説者はフレディのマイノリティとしての苦悩を取り上げ、今の時代であればもっと苦悩も少なかったのではとも言っていたが、私は今の時代であればクイーンは生まれなかったのではないかと思う。コーラスの多重録音を針が振り切れるほど限界を超えて重ね合わせて、音楽の実験を繰り返したシーンに、デジタルな現代では起こりえない、あの年代だからこその偶然を感じた。

cof

 


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm