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「どうしてフィンランド?」

日本には、北欧好きな人が多い。
特に最近は、フィンランド好きな人が増えているように感じる。

「世界一幸せな国、フィンランド」
というフレーズをアチコチで耳にするでしょ。

私、
このフレーズに、
ちょっと違和感があるのだ。

そういえば、
昨年の12月は、
フィンランドがロシアから独立をして、ちょうど100年だった。

その独立100周年を、
フィンランド人よりも大いに盛り上がっていたのは、
何を隠そう、日本人だった。

そっかー、
「幸せなフィンランド」というキーワードのビジネス市場は、
日本ではこんなにも大きいんだって、
ちょうど去年の今頃、改めて実感した覚えがある。

まあ、これって決して悪いことではないよね。
うん。良いことだ。

でもね、
フィンランドって、
本当はすごく苦労している国だなあって私は思うのだ。
独立して、まだたったの100年。
しかも、第二次世界大戦では敗戦し、
戦後は苦しく貧しい時代が続いた。

ご存知の通り、
フィンランドの冬は、ものすごく寒くて長くて暗い。
税金もとても高く、
自国生産の食材は種類に乏しく、
ワインなどもすべて輸入に頼っている。
アルコール依存の問題も、フィンランドでは長く深刻な問題で、
裏道に入ればウォッカ瓶を飲み干して道で寝ている人がいたりする。

そういうことをスルーして、ワイワイと持て囃すことに、
私は少し抵抗がある。
どんなに幸せに見える国も、様々な問題を抱えている。
買い被ってはいけない。
その国が好きだと思うのであれば、その国のネガティブな部分もきちんと知って、
トータルで評価をしようよって言いたくなっちゃう。

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例えばクリスマス。

っていうか、
日本のクリスマスは、いつからこんなに豪華になったのだろう?
私が子供の頃って、
酔ったお父さんが駅前でイチゴのケーキを買ってきて、
アルミ箔の巻かれた鶏もも肉を食べておしまい。
そんな時代だったような気がするのに。

今や、フォアグラとか、キャビアとか、
目がパチクリしてしまうご馳走が、日本のクリスマスの印象だもの。

そもそも、日本の食文化って、
世界でもトップクラスだなあって、つくづく思う。
デパ地下を歩けば、食材の世界万博だもんね。
どんな国のどんな食材でもご馳走でも手に入っちゃう。
それに加えて、無形遺産にもなっている素晴らしい和食文化があるし。
すごいよなあ。

で、
話は戻って、
フィンランドのクリスマス。
こちらは、至ってシンプル。

お米の牛乳がゆ。
ジャガイモ、ニンジン、ビーツをサイコロサイズに切って、
茹でて混ぜて食べるサラダ。
スモークサーモン。
豚の塊肉に甘いマスタードを塗り、クローブを差して焼いたハム。
ナッツや干しブドウを入れて作った甘いホットワイン。
手裏剣型のパイ生地に自家製ジャムを乗せて焼くお菓子。
あとは、大量のジンジャークッキー。
そのくらい。
チキンの丸焼きもホールケーキも、テーブルには並ばない。

ね。
良い意味で質素で、興味深い。

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ご馳走ダイスキな日本人が、
なぜ今、フィンランドを求めるのか。
それは、
「満たされ過ぎているからこその原点回帰」という現象なのかなあ。
前回のコラムで書いたように、
やっぱり隣の芝生は、青く見えちゃうってことなのかもしれない。

長い休みが取れない日本の社会では、
短い休暇の旅先として、フィンランドはとても過ごしやすい。
物価は高くても、直行便もたくさんあるし、
英語も通じるし、かわいいマリメッコもムーミンもあるし。

国内メディアが取り上げる、フィンランドフィーバーも、
「豊かな自然と、心豊かな人々」という情報が、
日本の人の心にすっと入ってくるからなのだろう。

でも、
一定のイメージばかりが先行してしまい、
すべてが美しく、すべてがかわいく、
すべてが幸せに見えてしまっているとしたら、
その決めつけは、ちょっと怖いなあって、
私は思っちゃうんだよね。

それもこれも、かつて、
地球をぐるりと暮らしながら長旅をしたり、
何もない小さな国に住んでいたことがあるせいか、
一週間程度の短い旅や、メディアが持ち上げる一部の情報だけで、
その国の良し悪しを決めつけちゃうことが、
どうしても、苦手なんだと思う。

なんだか私、意地悪な小姑みたいだよね?

そのくせ、意地悪小姑の私自身、
「あー、フィンランドへ行きたい」と、
毎日思っている。
昨日も今日も思っていた。
どうしてなんだろうなあ?

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降り立つと、なぜか落ち着く。
他の国にはない、素朴な空気。
小さな国なのに、
世界に轟くデザイン、アート、工芸の力を持っていて、
その美しいデザインが生活の中になじんでいる。
暮らしを大切に、家族を大切に、友人を大切に、自然と共存する生活。
ネガティブな部分も含めて、やっぱりダイスキ。

どうしてフィンランドなんだろうなあ?

その答えを見つけたくて、2年間、このコラムを書いてきた。

そして。

結局、その答えが見つかっていないまま、
このコラムは、今回をもって最終回を迎えてしまう。

なぜ、私はフィンランドへ行くのか。

コラムは終わってしまうけれど、
この答えを見つけたくて、私はこれからもフィンランドへ行くだろうし、
この旅は、これからもずっと続いていくと思う。

あ。
ちなみに来年は、日本とフィンランドの国交100周年の年。

おそらく、日本では恐ろしいほどの盛り上がりを見せるのだろうなあ。
そして、恐ろしいほどのイベントが企画され、
今よりももっと大きなフィンランドブームが来るかもしれない。

それに比べて、フィンランド側はどうなのかなあ?
意外と、シーンとしていそうな予感がする。
2ヶ国の温度差に想像がついて、私は思わずニヤニヤしてしまう。

そうか。

ここまで書いてきて気が付いたけれど、
私が感じてやまない、フィンランドフィーバーへの違和感は、
ただのジェラシーなんだね。
フィンランドが好きだからこそ、
今のブームにジェラシーを感じていて、
こんなお話を書いている。
なんだか、本当に、意地悪な小姑みたい。

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※2年間、「旅のちたびたび、北欧へ」の連載にお付き合いくださいまして、
誠にありがとうございました。
2019年1月より、
新連載コラム「10年ぶりの、バックパッカー世界の旅」がスタートします。
公開日は、今までと同じく毎月16日の予定です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

 


著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身