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猫も杓子も“まったり化”

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『Hanako WEST』 2002年11月号「決定!関西人気カフェグランプリ」
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『an an』2002年1月「カフェを思いきり楽しもう!」
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『男の隠れ家』2002年4月「Caféで憩う」
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『TITLE』2001年8月「誰も知らないスターバックスの「秘密」」
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『Meets Regional』2003年7月「カフェ・ブランド研究」

 前回、『サイゾー』の対談記事で心配されていたカフェブームですが、そんな声はどこ吹く風。もはや「時代の価値観」を反映するメインストリームとして、着々と世に浸透していました。『Hanako WEST』では、「‘02空前のカフェ・ブームを飾る待望のベストランキング」と銘打って、初の関西のカフェGPが開催。「昨日、今日、明日カフェが好き!」と、高らかに宣言して始まる巻頭の総合GPは、京都の「カフェコチ」が獲得。準GPには神戸「ベレ」「トリトンカフェ」、京都「猫町」、大阪「ソクラテス」といった顔ぶれ。手作りの内装、雑貨屋のような空間、ノスタルジックな古民家、アンティーク家具、デザイナープロデュースなど、当時のカフェにおける王道路線を体現しています。
 さらに、その要素を細分化したジャンル別GPも。各部門を見ると、ブックカフェ:京都「Prinz」、ギャラり―カフェ:大阪「ベルベット・フォーム」、デリカフェ:京都「ブーガルーカフェ+デリ」、居心地のいいスペース・デザイナーズ編:大阪「S!X」、ノスタルジック編:大阪「ハレハレオーガニックカフェ」、ロケーション編:大阪「ゴハンカフェ178s」。当初は神戸、大阪が先行していた印象だった関西カフェシーンで、京都も存在感を発揮し始めます。
 また、「今も昔もずっと愛されてきた関西名カフェ名鑑」と題して、この時点で早くも“老舗”と目されるカフェをピックアップ。ただ、「カフェドジ」、「さらさ」、「カンテグランデ」といったベテランはともかく、「ジアースカフェ」、「カフェガーブ」、「アリアンスグラフィック」、「エフィッシュ」、「コンテンツレーベルカフェ」、「サロンドテトゥーストゥース」など、「昔」といっても10年に届かない店が大半ですが、すでにカフェの中でも年季の差が現れ始めたことがうかがえます。
 ともかくも、今に続く関西カフェシーンの顔役が揃ったGPですが、全国区では同年に、あの『an an』も「カフェを思いきり楽しもう!」と、(多分初にして唯一?)カフェを特集。巻頭の「カフェ通の有名人のお気に入りは?」に続いて、「いま新鮮!レトロカフェ8軒」として「ライオン」や「蔦珈琲店」など、老舗がずらずら現れたのにはちょっと驚きましたが、挟み込みの京都カフェ小特集を含めて106軒掲載と、ファッション誌と思えぬ気合いの入りようです。
 エッセイストの酒井順子さんは『ananの嘘』(講談社現代新書 2017)で、この背景に時代の「まったり化」の進行がある、と指摘しています。この特集に触れて、居酒屋で酒を飲むよりも、「カフェで身体に良さそうなものを食べてお茶を飲む、というのが平成スタイル」として、バブル崩壊後の長期不況が日常になり、「無理せずできる範囲で楽しく」という世の空気を重ねています。そういえば、『Hanako WEST』の総合GP冒頭の見出しも、「今の気分は“スローカフェ”」。『Hanako West Café』でも提案された“カフェなライフスタイル”も、カフェ開業者の増加も、酒井さん曰く「家のカフェ化とカフェの家化の同時進行」とは、当時の動向を見事に捕らえています。
 そうした世の流れは男性誌にも。『男の隠れ家』も、2000年に「街角の名喫茶」を特集した2年後には、「Caféで憩う」を特集。変わり身の早さは置いておいて、あくまで巻頭は格調高く。
「フランス語の“カフェ”は、上流階級の“サロン”の対語だという。19世紀初頭のフランスで革命を準備した一群の思想は、カフェを舞台に活躍したのである。こうした知的文化の伝統は20世紀になっても継承され、ダダイズムやシュールレアリズム、エコール・ド・パリなどの芸術運動がカフェから発信された。そんな知的土壌のない日本で起きたカフェの乱立。そして、ブームの終焉、後に残ったのは、大人の男が心から憩える空間だ。個性煌めくカフェで芳醇な香りを楽しむ」。
 いきなりブームを終わらせていますが(笑)。「その後に残った」とするカフェは、比較的モダン&シックな空間を中心に、新宿「スカラ座」、京都「長楽館」などレトロ建築を生かした重厚な老舗が続き、さらに海外に飛んでパリの新旧カフェ紹介。同時期の店として目を引くのは、札幌「森彦」、ブックカフェ枠として登場の渋谷「NON」、下北沢「カフェオーディネール」あたりでしょうか。“大人の男”にとってのCaféは、「家化」とは無縁だったようです。
 さて、カフェが家になったり、家がカフェになったりする中で、着々と“カフェのシアトル化”を進めていたのが、上陸から5年を経た「スターバックス」。01年には、スポーツ誌『Number』スペシャルとして刊行された『TITLE』にて大特集が組まれています。『アリー・マイ・ラブ』の名シーンから始まる32項目、約100ページにわたって、「誰も知らないスターバックスの「秘密」」を完全解剖。当時、渋谷TSUTAYA店が売り上げ世界一だったとか、最初は喫煙席もあっただとか、トリビアも満載の誌面で目を引いたのは日本1号店のオープン時の様子。少し長いですが、一部ご紹介すると…
「96年8月6日。35度を超す炎天下の中、東京銀座の松屋通りには、スターバックスのコーヒーを求める人々で長蛇の列ができていた。「最高で100人くらい並んでいたと思います。見るに見かねて、松屋の駐車場係の方が、行列の整理をしてくれたほど」~営業時間内、一度として行列が途切れることはなかった。その様子を来日していたハワード・シュルツ会長は喜びを噛みしめながら眺め、後日『店が雇ったさくらだと思った』とジョークにしたほど。この現象はオープン後2、3か月続き、それ以降も1年間ぐらいは土日ごとに行列ができたという」。
 最近では「ブルーボトルコーヒー」初上陸が話題になりましたが、インパクトは「スターバックス」の比ではなく、今に至る快進撃はご存知の通り。「スターバックス」自体が増えたのはもちろん、同型カフェのオープンラッシュにも火をつけ、以降、繁華街には国内外のチェーンが続々と。カフェ界の黒船来航がもたらした、この状況を掬いとったのが、03年の『Meets Regional』「カフェ・ブランド研究」特集。今見ると、誰もが飛びつく主役(スタバ)から、あえて目線をズラした切り口が秀逸です。
 冒頭を読めば、チェーン系ながら使い勝手や居心地、独自のサービスで差別化を図る「ブランド・カフェ」は、「もはや『エスプレッソが飲めるハコ』というだけのハナシではない」。ここに挙げられているブランドは、外資系では「スターバックス」「シアトルズベスト」「タリーズ」「ラバッツァ」「カフェネスカフェ」。国内では「エクセルシオール」「サンマルクカフェ」「珈琲館」「カフェ ディ エスプレッソ珈琲館」「jojo」「プロント」「ムウムウカフェ」。草創期ということもありますが、これだけのブランドが並ぶ誌面は、ある意味壮観です。
 ロケーションから客層、インテリア、スタッフ、メニューのカスタマイズまで事細かに紹介したうえで、ブランド別のキャラの違いを比較。加えて、カフェオーナーやインテリアデザイナー、食の専門家によるブランド・カフェ巡りもあり、お客としてそれぞれの使い方を通して、サードプレイスとしていかに街に浸透してきたかを改めて実感します。個人経営のスローな店から都市生活にフィットするチェーン系まで、細分化しながら広がった“まったり化”は、カフェがブーム以上の存在になったことを伝えています。


著者プロフィール
月刊連載『棚からプレイバック』毎月7日公開
icon_amaniga田中慶一(たなかけいいち)
珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』(@amaniga1)編集人。
1975年生まれ。関西で文筆・編集・校正業の傍ら、コーヒー好きが高じて、喫茶店の歴史から現在のカフェ事情まで独自に取材。訪れたお店は新旧合わせて900軒超。現在、全都道府県1000軒訪問を目標に活動中。2013年から「おとな旅・神戸」http://kobe-otona.jp/ で、コーヒーをテーマにした街巡りの案内人を務める。2017年に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)http://kobe-yomitai.jp/book/518/ 制作を全面担当。『甘苦一滴』のバックナンバーDL販売はこちらhttps://amaniga.base.ec/ 。