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「焼鳥今井」

2006年オープンというから12年程前のこと、近所の千駄木駅近くでテナント工事をしていた、カウンター7席の新しいお店に小さな看板がかかった。「焼鳥今井」。開店後2週間も経たない頃に訪れたのが今井さんとの出会いだった。コースで出される絶品の焼鳥と今井さんの話術に一瞬でファンになった。程なくして7席のお店は予約の取りずらい繁盛店として有名になった。客は焼鳥や料理を味わうだけでなく、今井さんの所作をも楽しんでいるようで、今井劇場と形容されることもあった。千駄木にお店のあった10年の間何度も訪れ、その今井劇場を楽しんだ。客がカウンターに並ぶと不思議と店内に一体感がうまれ、今井さんの上手な流れに沿って隣のグループとも自然と会話がはずむ。今思えばきっと、その日の予約リストを見ながら、このお客さんとこのお客さんはきっと話が合うだろうななどと、今井さんはその晩のストーリーを作っていたのかもしれない。

2年半ほど前、今井さんが千駄木のお店を閉め、外苑前に新たに7ー8名のスタッフと共に30席のカウンターのお店をオープンした。新しい「焼鳥今井」では、大カウンター中央奥の焼き台から、時折スタッフにゲキをとばし、30席の全員の顔を伺っている。馴染みの客のところに挨拶に行っては一言二言笑顔で会話をする。しかしあの下町にあった小さな今井劇場はない。少し洗練された映画やドラマを観るようなそんな雰囲気だ。

2018年12月、今井さんが新しくとんかつのお店を外苑前の焼鳥屋の隣に出店するという。
「今、オレイズムを叩き込んでいるですよ。カウンターのお店に拘っているから、料理の腕だけではお客さん満足させられないでしょ。」今井さんはあの頃と同じ笑顔で話していた。

「焼鳥今井」の同じ建物の3Fにある、佐伯貴史さんの「Barトースト」で、美味しい料理と「今井劇場 第2幕 」の余韻に浸りながら、カクテルをいただく。第3幕となるとんかつ店も楽しみである。ただ少しだけ寂しいのは、今井さんのギターの話が聞けなくなったことだろうか。

http://www.yakitoriimai.jp/


 


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm