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蛸のサンダル 第31話 啓示

明けましておめでとうございます。
神社に初詣に参りまして、今年もお御籤を頂きました。
ドキドキしますね。

運勢は「吉」。お言葉は「一日を加ふれば一日の功あり 一年を加ふれば一年の功あり」。意味は、一日努力すれば一日分その努力が報われる。一年努力すれば一年その努力が報われる。日々の努力を怠らず積み重ねることが大切であり、その努力が無駄になることはありません、というものでありました。さらに「願望が叶うには信念が大事」とあります。その話をしたら人からは「なんだか普通」と評されたけれども、わたし的には、頑張ろう、信念を持っていれば狭き道も行けるはず。と思える一年のスタートになります。

そろそろ独立起業話も飽きてきたでしょう(わたしが)、ということで今回は本のお話。

小学生の頃には『シャーロック・ホームズ』のシリーズや山岡荘八さんの歴史小説『水戸光圀』などを読んでいた記憶がある。いちばん愛読していたのは團伊玖磨さんのエッセイ『パイプのけむり』シリーズ。新聞の長寿連載が単行本化されたものだが、おそらくほとんど全部読んだのではなかったか。そんなわたしの当時の将来の夢は物書きになるか、喫茶店の寡黙なマスターになること。引っ込み思案なのか多感だったのか何なのか、人づきあいをしたり、お愛想をふりまく仕事がイメージできなかったんでしょうね。いま考えれば、じつにオジサン的な物静かな少女でした。

『パイプのけむり』は本当に熱心に読んだけれども、いまも覚えているシーンはひとつだけ。團さんが奥様とローストビーフについて会話するという話だった。失礼ながら原書を確認せず曖昧な記憶のまま書くと、ローストビーフに最適な部位はどこなのかしら? モモ肉でつくっても、柔らかくならないのよ、と奥様が言い、それなら食べに行こうとロンドンの名店「シンプソンズ」を訪れる。「わかったわ!エイチボーンなのよ」。エイチボーンとは日本でイチボと訳されている臀部(おしり)の肉のことだ。という話なのであります。

『水戸光圀』では御三家水戸藩の若様だった水戸光圀(水戸黄門)の人生を描いているのだが、覚えていることは江戸時代のお風呂が蒸し風呂だったということ。もうひとつは讃岐高松の藩主となった兄・松平頼重が光圀にすばらしい桜鯛を送ってきたというくだりだった。

料理本は、高校生の時に仲の良かった友人が好きだという『コクトーの食卓』を真似して買い、フランスっぽい哲学的な文体が肌に合わず撃沈。しかし、いまでも「コキーユ サンジャック」という言葉は覚えている。訳は聖ヤコブの貝殻。ホタテ貝のことだ。だから料理本の出版社に勤め始めた時もサンジャック=ホタテということは知っていたのであります。

「あんなに本を読んで、食べもののことしか覚えていないのか」と例の年上の悪友などからは呆れられるのだが、本当にそうなのだから仕方がない。本に詰め込まれた膨大な文章の中から啓示のように輝いて見えるのは、いつもいつも食べものの記述なのであります。

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年末には『人生進化の700万年』(講談社現代新書)を読んだ。
ヒトの起源について、三井誠さんという新聞記者の方が最新研究をわかりやすくまとめた良書で、類人猿と現生人類の共通祖先からいままでの道のりのなかで、どんな分化が起こったのかを知ることができる。人類学の本ではあるが「大型化する脳のエネルギーを肉食が支えた」「飲酒の始まり」「現生人類は複雑な言語をしゃべれるようになったから、もちがノドにつまる」「ビタミンCはいつからビタミンか」など”食”情報も満載なので、ぜひ一読をおすすめします。

さて、偏った読書体験をしてしまうわたしと違って、今回はちゃんと文学を愛する素敵な女性のイラストをご紹介。青山のバー「スタンド7」オーナーの船木香さん。早大文学部卒業の才媛で映画やアートにも造詣が深く、飲食業界では「日本のソフィア・ローレン」と讃えられる日本人離れした美貌の持ち主。スタンド7は毎夜、日本のデザイン業界を代表する方たちの溜まり場として繁盛しています。

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船木さんの招き猫。「あ、小判って書けばよかった」。大判と書いたと嘆いているけれど……船木さん、これ「大伴(おおとも)」ですよ!

イタリアンや中華レストランの業態開発やオペレーション指導なども行なう船木さんは、感性主導タイプに見えて「計るのが大好きで餃子のあんの塩もちゃんと計って入れてる」という真面目な努力家。最近では個人的に和菓子とお寿司の学校へ習いに通っているといいます。いつか和菓子を食べさせていただけるのでしょうか、楽しみですね。

さて、新年初回の蛸サンはここまで。しかし、ひとつお知らせがあります。

SEASON2に入ったばかりではありますが……、イラストのお題を招き猫から蛸&サンダルに戻すことにします。(えーーーっ、せっかく猫の練習をしたのに)という奇特な方がもしもいらしたらごめんなさい。だって猫は皆さん描くのが簡単そうなんだもの。皆さんの隠された画力を発揮していただくには、蛸ないし海洋生物のほうが難題でいい。信念をもって狭き道をゆけ、という啓示に従うことにしたのであります。

それでは次回までの間にお目にかかるかもしれない方は、ドキドキしてお待ちくださいね。ごきげんよう。


著者プロフィール
月刊連載『蛸のサンダル』毎月6日公開
icon_asai浅井 裕子

株式会社anemosu代表取締役。東京・新宿生まれ。食の老舗出版社に編集者として25年5ヶ月勤務したのち、退職。2018年10月に独立起業。日本の「食」と「大人とこどもの食育」をもっと楽しく深く広めることをテーマに、出版、情報サービス、教育サービスなどを通じて多角的にプランニングしていく予定。趣味はベランダ園芸と料理。血液型はO型、天秤座。