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「プロローグ」

旅が好きと自負しておきながら、
パスポートの有効期限が、残り数日で切れることに気が付いて、
唖然とした。
今、大慌てで10年ぶりのパスポート更新の手続き中。
なんとか駆け込みギリギリセーフ。
ふう、アブナイ。

そんなハプニングのお陰もあって、
期限の切れるパスポートのページを、久しぶりにめくりながら、
10年前に世界を周った旅先のスタンプを、懐かしく眺める。

2009年。
私は夫と、9ヶ月の世界旅行に出た。

自分の身体ほどありそうな大きなバックパックを背負って、
現地の市場やスーパーで食材を調達し、
その土地の人々の生活にお邪魔して、
暮らしながら旅をした。

トータル18ヶ国。
訪れた街は75都市。
お互いにちょうど40歳を迎える年だった。

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「10年ひと昔」とはよく言ったもので、
10年前のあの旅から、時代は大きく変わったなあって思う。

当時、
日本では、wifiというものがメジャーではなく、
wifiを「ウィフィって何?」とIT関連の仕事をしている友人に尋ね、
笑われてしまった時代だ。

スマフォやタブレットなるものも登場していない。
だから、バックパックの中に、
分厚いノートPCとネットケーブルを入れて持ち歩いた。
今ではちょっと考えられない。

いろんな意味で、
様々なモノがかさばった時代で、今よりもずっと不便だった。

airbnbのような民泊サービスもなく、
アパートを借りるには、現地で不動産契約をしてその場で現金を支払う。

PCの中のGoogle先生も今ほど親切ではなく、
次の旅先の地図を、現地のネットカフェでプリントアウトして、
ファイルのように持ち歩いた。

日本から持っていったガラケーでは、
スカイプもLINEももちろん使えず、
日本との連絡はショートメールかハガキを出すか。

フェイスブックの存在も、
この旅で出会ったフランス人の男の子から教えてもらった。

「どうしてFBやってないの?トモダチになろうよ!」
って言われて、FBとは何ぞや?と、
恐る恐るスタートしてみたのが、
彼と出会った、ペルーにあるクスコの安宿だった。

インスタグラムもなかった時代だから、
私は毎日、現地でブログを書いた。
重くてかさばるノートPCにケーブルを繋いで。

そんな10年前のバックパッカー、ふたり旅。

手洗い洗濯の連続で、擦り剥けてしまった指先。
真っ黒に日焼けしすぎたノーメイクの9ヶ月。
巨大なバックパックの中には、いったい何が入っていたんだろう。

あの旅を、
あの時間と景色と出会った人々を、
これから少しずつ紐解いていこうと思う。

で。
ここからが難しいぞ。
いったいどの国のどの土地から、解き始めるのか。

何しろ、2度と行きたくないと思った場所はひとつもなく、
全ての街がナンバーワンに感じた旅なので、
75ヶ所の中から選ぶことは、とても難しい作業なのだ。

なあんて言いながらも、
9ヶ月間に渡り撮り続けた、大量の画像を見直したり、
旅先で出会った人や出来事を思い出して、大笑いしたりと、
あの旅の記憶を紐解く作業は、
実はものすごく楽しくて仕方がない。

なんでこんなに楽しいのだろう。

それはきっと、
この連載で、
もう1回、世界を旅することができるからだ。

10年ぶりに、
私は夫と一緒に、旅に出る。

私はもう一度、地球をグルリと周るのだ。
大きな大きなバックパックを背負い直して。

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著者プロフィール

月刊連載『10年ぶりの、バックパッカー世界の旅』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身

伊藤志保さん コラムのバックナンバー:月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』(全24話)