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憩いの場にあるべきものは…?

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ェイム『別冊CF! まどろみの京都喫茶ロマン』2004年
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マガジンハウス「BRUTUS」2005年3/15「Coffe&Cigarettes」
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京阪神エルマガジン社『Meets Regional』2005年4月号「ザ・純喫茶」
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『Café&Restaurant』2006年12月号「名物コーヒー1948~2006」(旭屋出版 2006年)

 世の“まったり化”が進んだ2000年代初頭でしたが、04~06年にかけてはカフェ特集もややペースダウンしたようで。この年代は、ちょっと谷間の時期という印象です(単に買い忘れていただけかもですが)。それでも、『Hanako West』は相変わらず、毎年別冊の『Hanako Café』を発行し続けていましたし、この頃には砂糖メーカーなどとのコラボ号まで出ています。ただ、ここにきて新店も出尽くしたのか、雑誌にもまったりした気配が感じられます。
 その中で、棚を眺めつつふと目に着いたのが、ちょっと懐古的なテーマの特集です。04年、京都のローカル誌『CF!』は、どっぷり喫茶店だけの特集を組んでいます。「感動の懐古的喫茶50店の物語」と題して、1店ずつかなりがっつりとページを割いた誌面は、古い写真も充実していて資料的価値大。「イノダコーヒ」に始まり、学生街の名物喫茶、音楽喫茶、町家などのリノベ系に和菓子店の併設喫茶まで、昭和初期から今に至る顔ぶれは、戦災を免れた京都ならではの重厚感。「セブン」「まる捨」「ぶりらん」「リバーバンク」「わびすけ」「ほんやら洞」「みゅーず」「クンパルシータ」など、今はなき老舗の往時の姿が残る、今になって貴重な一冊です。
 翌年には、『Meets Regional』が、そのものズバリ「ザ・純喫茶」特集を敢行。5年前にカフェを大特集していた同誌が翻意? その心は巻頭にあり。「雨後の筍のようにカフェが街に飽和し、ある意味淘汰されてきた2005年、春。だから今、そんなカフェの波も超えて、普通においしいコーヒーを出してくれる喫茶店が気になる」。京阪神で全く異なる土地柄を持ち、その街、その場所でしか存在しえない喫茶店があることを語った上で、「どこの街にあっても同じようにカッコよかった、カフェよさらば」と、早や決別の辞を送っています(笑)。これはあくまで想像ですが、一大ブームから淘汰を経た中で、“店を続けること”の難しさを実感し始めた、カフェ世代の心の声の現れではなかったかと。同年の『Café Sweets』の中にも、「10年続く店作り」云々という特集を見かけたことからも、あながち当たらずとも遠からず? そして、“店を続ける”ことの範を、大先輩である純喫茶に求めたのかもしれません。開けるのにちょっと気合が要る、ご当地喫茶の扉を次々に開けるこの特集は、当時のカフェ世代にとっては新鮮な発見だったのでは。しかし、しばらくシュッとしたカフェの写真ばかり見てきた後に、こってりしたビジュアルはことさら時代の差を実感させてくれます。
 またモノクロページでは、「ほんとうにおいしいコーヒーの店は、どこだ?」と、数々の老舗・名店の流儀を紹介。今になって気付きましたが、70年代あたりの自家焙煎全盛世代の中に交じって、すでに「カフェ ヴェルディ」や「バーンホーフ」といった「カフェバッハ」の流れを汲む店が。関西のスペシャルティコーヒーの先駆が入っているのは、この後のコーヒーの大転換を予兆していますが、まだ少し先の話。それでも、昔ながらの喫茶店やコーヒー専門店の存在なくして、コーヒーへの注目はなかったのだなと思わされます。
 対して、同年の『BRUTUS』は、「Coffe & Cigarettes」。ジム・ジャームッシュの同名短編映画の公開に合わせた特集です。「ここ数年、飛躍的に増えるコーヒーショップ、規制される一方の喫煙。時代はこのふたつの嗜好を対極化する。けど「一服」という人類にとってのささやかな快楽の、共に主役であることには今も変わりはない」。
 喫茶店の“喫”は喫煙の“喫”なんて、よく聞きましたが、嫌煙志向の今ではおそらく実現不可能な特集ですね。コーヒーパートでは、著名人100人のお気に入りコーヒーに加えて、手網焙煎指南、ソムリエによるテイクアウトコーヒー比較を敢行。タバコパートでは、映画、文学の名シーンなどが展開されます。いまやカフェ、喫茶店は禁煙デフォルトといっていい時代ですが、その意味ではコーヒーとタバコもまた、懐古的な嗜好の組合せであり、いまや失われつつある風景でもあります。
 一方、専門誌で言えば、06年の『Café & Restaurant』では「名物コーヒー1948~2006」なる特集も。店ではなく、ロングセラーにスポットを当てて、銀座「ランブル」のブラン エ ノワール、博多「ブラジレイロ」のクラシック、名古屋「コンパル」のセルフスタイルのアイスコーヒー、「加藤珈琲店」の珈琲ぜんざいなど、長年“続く”オリジナルコーヒーを紹介しています。
 今だから感じますが、この頃の雑誌をつらつら見るに、明らかにカフェからコーヒーへと注目が移っていったような印象があります。ちなみに04~06年あたりで出た書籍で言えば、田口護『田口護のコーヒー大全』、堀口俊英『スペシャルティコーヒーの本』と、コーヒー界の重鎮2人の著作。門脇洋之『エスプレッソブック』、横山千尋『横山千尋バリスタブック』と、バリスタ界のパイオニア2人によるレシピ本。さらには、嶋中労『珈琲に憑かれた男たち』、『さっぽろ喫茶店グラフィティ』と、硬派な2冊も。変わり種でいえば、マンガ界にもコーヒーが進出。コーヒー版『美味しんぼ』ともいえる『珈琲どりーむ』が刊行し、以後増えていく“コーヒー漫画”の元祖的存在です。
 また関西の街の動きを見れば、スペシャルティコーヒーを扱う新世代コーヒー店の先駆けが現れはじめた時期でもありました。神戸では「GREENS Coffee Roaster(現 GREENS)」、大阪では「TIPOGRAFIA」「カフェ バーンホーフ」、京都では先述の「カフェ ヴェルディ」に「Unir」、「Café Weekenders(現 WEEKENDERS COFFEE)」と、関西コーヒーシーンの画期を告げる顔ぶれが登場します。
 ライフスタイルにまで浸透したカフェ全盛期は、お世辞にもコーヒーへの関心が高いとは言えない時代でしたが、奇しくも、先の『Café&Restaurant』の特集巻頭にはこんな見出しが付いていました。「コーヒーを大切にする店が、世代を超えて愛され続ける」。そんな時代は、すぐそこまで迫っていました。


著者プロフィール
月刊連載『棚からプレイバック』毎月7日公開
icon_amaniga田中慶一(たなかけいいち)
珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』(@amaniga1)編集人。
1975年生まれ。関西で文筆・編集・校正業の傍ら、コーヒー好きが高じて、喫茶店の歴史から現在のカフェ事情まで独自に取材。訪れたお店は新旧合わせて900軒超。現在、全都道府県1000軒訪問を目標に活動中。2013年から「おとな旅・神戸」http://kobe-otona.jp/ で、コーヒーをテーマにした街巡りの案内人を務める。2017年に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)http://kobe-yomitai.jp/book/518/ 制作を全面担当。『甘苦一滴』のバックナンバーDL販売はこちらhttps://amaniga.base.ec/ 。