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蛸のサンダル 第32話 リカ

前職を辞してから、気づいたことがある。
ものすごく久しぶりな方と再会したり、初めてお目にかかる方が増えた。そして、その方たちが最初に目にするわたしの文章は、なんとこの「蛸のサンダル」だということだ。本業の誌面の余技余芸として徒然を綴ってきたコラムを読んで、一度も本業の記事を読んだことのない方が、わたしの文章とはこうだと断じ、接してくる。その恐ろしさはなんと言ったらいいのか。しかもそれが、意外と同業者だったりするから厄介なことだ。

コラムのための文体を記事の文体と誤認されるだけではなく、過去にイラストを描いていただいた知り合いのプロフェッショナルな方たちとの交友についても、なにか「見せびらかしている」みたいに見えているのではないかと、ふと憂鬱になる。そんなことを夜な夜な考えていたら、今月の蛸サンを書き始めるまでに時間がかかってしまった。

あのね、無料でオンラインで読めるものが、すべてじゃないから。
オンラインで、かつコラムで、パーソナリティを出した書き方をするのはひとつの手法だから。

そう念を押すように書くと、またあれこれ言われるのだろうか? 視野の狭い面倒くさい世の中になったものであります。

良い出会いもある。大学卒業以来ご無沙汰していた恩師に連絡をとってお目にかかり、楽しくお話させていただいたり、異業種の方とお話する機会にも恵まれて、「食」以外の世界も広いが、みなさん「食」には高い関心をお持ちなのだと実感する。

面白かったのは、とある百貨店の上顧客向け販売会に、野菜の売り子として参加したことだ。詳細は差障りがあるので省略するけれども、販売ブースでは販売員派遣会社から来ている女性たちと一緒に働いた。彼女たちは野菜ひとすじン十年、常連客の顔と好みを熟知し、アイコンタクトと笑顔でお客を離さない。テーマとなっている野菜は初めて扱うはずなのだが、事前にチームで味見をし、適切な食べ方を把握したうえで、わたしにも説明を求めてから販売に臨む。

そこから、さらにスゴかったのは、わたしがお客に説明をする「どんな野菜か」「どんな調理法ならおいしいか」の言葉の一部始終を聞き漏らさず、次のタイミングからは自分たちで間違いなく反復なさっているのであります。ここにもプロフェッショナルがいる!と思ったわたしは心底うれしくなり、一日半の短い時間ではあったけれど、彼女たちとともに楽しく任務を全うしたのでした。本当は彼女たちに蛸を書いてもらいたかったぐらいなのだが、そうもいかず。

今回は、2016年の年末に描いてもらったのにまだ載せていなかった(ごめんなさいね)、インテリア業界のプリンス、窪田 茂さん(窪田建築都市研究所)のイラストをご紹介します。

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窪田さんは日本を代表するインテリアデザイナーの重鎮で、日本商環境デザイン協会の現理事長でいらっしゃいます。お仕事をご一緒したことはないのだけれど、デザイナーさんたちの集まりではお馴染みの「JCDスーパーバンド」のメインボーカルとして、プリンス、クイーン、レニー・クラヴィッツなどを歌い上げ、デザイン界に熱気をもたらしてくれているリーダーです。

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窪田さんの蛸。ハートが飛んでる!目がハート(笑)。ラブリー。

窪田さんはお優しく温厚で、人望の厚さが傍から拝見していてもわかるのだが、なぜかわたしのことを「リカ」と呼ぶのであります。リカって、誰なんだろうか?本名はご存知のはずなんだけれども?

そうか、これからはペンネームで書いたらいいのかしら。浅井リカ、どこかにいそう。というかここに書いたらペンネームの意味がなくなっちゃうじゃん。なんてつらつらと思いながら、今日もコラムは終わっていくのでありました


著者プロフィール
月刊連載『蛸のサンダル』毎月6日公開
icon_asai浅井 裕子

株式会社anemosu代表取締役。東京・新宿生まれ。食の老舗出版社に編集者として25年5ヶ月勤務したのち、退職。2018年10月に独立起業。日本の「食」と「大人とこどもの食育」をもっと楽しく深く広めることをテーマに、出版、情報サービス、教育サービスなどを通じて多角的にプランニングしていく予定。趣味はベランダ園芸と料理。血液型はO型、天秤座。