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「仰げば尊し、◯◯の恩」

我が家の胃袋と暮らしの文化を14年間支えてくれた、伊勢丹のアテンダントさんが今月いっぱいで退職される。
これまでのお礼と、最後のお買い物のお手伝いをいただくために一家で伺った。

この方に最初に出会ったのは14年前のB1フロア。食品売り場が現在の見え方になるための大規模なリモデルを行なっていた時だ。
このリモデル中に、ワイン売り場で声をかけていただいた。
いまや中学生になってしまったが、まだ赤ん坊だったうちの息子をすごく気にかけてくださった。
その後の成長もずっと見守って頂いていることから、彼はその人を「新宿の母」と呼ぶ。
いつも優しい言葉と笑顔で、ずっと昔からの知り合いのように迎え続けてくださった。
初対面のその時はシャンパンとワインセラーの話をした覚えがあるが、無骨なパーテーションで区切られて、照明の効果も薄いような状況で、その人の笑顔は太陽のようだった。

次に伺ったときは改装工事の区画が変わっていて、前回会ったところにたどり着けずにいた。
が、幸いにも妻が名前を覚えており、厚かましくも呼び出していただいて、良くして頂いたお礼を伝えようとしたところ「あら!なかがみさん!」と先方から名前を呼んで頂いた。
名乗ったのは、先日のひとときのことだったので、こちらの名前を覚えていてくれていたことには本当に胸が高鳴った。
ここからお付き合いは本格的に深まっていった。そして14年間である。

うちの妻はワインが好きで、その方がオススメしてくださるワインにすっかり心を奪われた。なんたってハズレがないのだ。
一緒にご提案いただける食べ物も、ご自身が必ず試して納得したものを勧めてくださるので、素晴らしい説得力を持っていた。
付け焼き刃でない説得力は、実体験に基づく率直な言葉で十分に伝わるのだ。これは自分の仕事に思い切り反映させて頂いている。
また探しているワインがあるときも、必死に対応してくださった。
一度買ってあまりの美味しさに感激した限定ワインの再購入を、本当にダメ元で相談したら、数週間かけて探し出してくださったことがあった。
この喜びは筆舌に尽くし難いものだった。
またフランスの高名なパティシエとお茶をいただく機会を作ってくださったこともあった。
とても驚いたし、家族の一生の思い出になった。

実を言うと、なぜそんなに良くしてくださるのか、いまだによくわからない。
消費者として我が家がそんなに有望に見えたはずもない。
しかしとにかくよく気にかけてくださった。
逆に力を貸して欲しいと依頼されることもあり、応えることでこちらが満足を得ることもあった。
我が家にプラスに作用する事や物は、とても丁寧に迅速に案内してくださった。
そう、この方は我が家をとても親身に“丁寧”に扱ったのだ。
そのうえで言えば、その方には「ホスピタリティ」を発揮して頂いた。と言うことになるのだろうが、実はそんなひとことでは言い表せない感情がある。
カタカナで淡々と「ホスピタリティ」と言ったのでは表現し切れない「肉親のように心遣いをする『親身』」を頂戴しているように思う。
「親身になる」と言うことは生半可なことじゃない。しっかりと関わることを覚悟するのだ。
我が家はその「肉親のように心遣いをする『親身』」を頂いているから、そのおかげで生活文化が飛躍的に向上した気がする。

「丁寧に暮らしましょう」
「子供の食を軽視しないように、おろそかにしないようにしましょう」
広くて深くて慈愛に満ちた言葉をいくつも頂戴し続けている。

退職されることで店頭でのお付き合いは終了するのだが、うちの息子のハタチまでの計画は共有済みだ。
その方が集めてくださった息子の生まれ年のたくさんのワインで乾杯する約束をしている。
ご自身も伊勢丹にはお買い物に来るそうだから、我が家も足繁く通いお買い物を共にさせていただこう。

そうそう、最後のオススメはクメール・ハニーと言うカンボジアの蜂蜜だった。
宝石のような、存在が信じられないような蜂蜜だった。
テイスティングした息子が跳び上がって感激して、顔を紅潮させて「買ってくれ」と。
横で太陽のような笑顔が輝いて、また我が家の食文化が向上した。


著者プロフィール

月刊連載『GARAKUTA HAVEN』毎月28日公開
なかがみやすお

1970年生まれ。戌年。
アパレルの販売を生業としています。
若い時は某アーティストのマネージャーやスタイリストとして動き回っていた時代もありましたが、
30代以降はアパレルに腰を据えて『ゲストサービスの正体を見極める』を胸に秘めて仕事をしています。
この5年半は明治通りのショップで統括店長兼バイヤーとして、多忙に翻弄される日々ですけれども、正直毎日とても楽しいです。
洋服が好き。グラフィックデザインが好き。カスタムすることと工夫することが大好きです。人生は工夫だと思っています。
ここでは僕が心の拠り所(HAVEN)とする、 ガラクタっぽいけど良デザインなモノをご紹介していきます。