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劇的!? コーヒー・センセーション

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●京阪神エルマガジン社『京阪神 珈琲の本』2009年
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●クリエテ関西『あまから手帖』2009年5月号「コーヒー新世代」
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●柴田書店MOOK『喫茶店経営』2009年
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●料理通信社『料理通信』2009年5月号「コーヒーの今が分かる」
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●マガジンハウス『CasaBRUTUS』2010年12月号「パンとコーヒー」
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●マガジンハウス『Kunel」2011年11月号「街とコーヒー」
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●料理通信社『料理通信』2011年4月号「カフェ、進化してます。」

07年を境に、雑誌におけるコーヒー扱いがどれほど変わったのか?
今回はまず、09~11年のコーヒー関連特集のリードをずらっと並べてみました。
「ここ数年、コーヒー界は目覚ましい発展を遂げています。エスプレッソドリンクはすっかり定着し、いまやエスプレッソマシンのないカフェを見つけるのが難しいほど。スペシャルティコーヒーも続々上陸。個人店からチェーン店までシングルオリジンへの注目を高めています。コーヒー界に生きる人たちを俯瞰してみると、その多様性をうかがい知ることができます。多様性を知ればコーヒーはもっと面白い。それは自分好みのコーヒーに出会う近道でもあるのです」(『料理通信』2009年5月号「コーヒーの今が分かる」)

「コーヒーの世界が劇的に変化を遂げている。日本でもすっかりおなじみになったシアトルを発祥地とするコーヒーは、深煎りの味わいとコクで、日常生活になくてはならないものになった。また、10年前までは生豆の規格や品質だけで価格が決まっていた美味しいコーヒーのブランド神話は、厳しい味覚検査によって選ばれる「スペシャルティコーヒー」の登場によって過去のものになりつつある。世界の頂点の豆を手に入れて、世界一おいしいコーヒーを自宅で飲める時代になったのだ。さあトップバリスタやコーヒー店が誘う、至福のコーヒータイムへ」。
(『一個人』2009年2月号「世界で一番おいしいコーヒーⅡ」)

「ここ数年、コーヒーが劇的に変化しています。生豆の品質が高くなり、焙煎・抽出の技術も全体的に向上し、街にはコーヒーのおいしい店が増えています。高品質化が進んでいるコーヒー、その背景にあるのは「スペシャルティコーヒー」と「バリスタ」というキーワード。~注目点のコンセプトと店づくり、そして店主のインタヴューをとおして、転換期を迎えたコーヒービジネスの今後の展望を探ります」。(柴田書店MOOK『喫茶店経営』2009年)

「この10年の間に、カフェは急速にレベルアップしました。バリスタの活躍や最新マシンの上陸によって、エスプレッソが浸透し、多様なコーヒーが登場。スペシャルティコーヒーの普及など、豆のクオリティも向上しています」。(『料理通信』2011年4月号「カフェ進化してます」)

「劇的に変化」(2回!)、「目覚ましい発展」、「急速にレベルアップ」。冒頭には、センセーショナルな一文が見られます。さらに、いずれもキーとなっているのはエスプレッソ、バリスタ、スペシャルティコーヒー。カフェでまったりしていた時代と打って変わってのカタカナオンパレードです。『料理通信』2011年4月号では、この状況を車に例えています。
「ガソリン=コーヒー、エンジン=マシン、ドライバー=バリスタ、インテリア=空間。もっぱら居住性で語られていたカフェが、ようやくガソリンの質、マシンの性能、ドライバーの腕で語る時代に入ったのだと言えるでしょう」。
即ち、お客はシートに座っていればいいという時代から、多分にメカニックな知識を求められるということでしょうか(バリスタ=ドライバーなら、マシン=エンジン・サスペンション、コーヒー=走行性能、のような気もしますが…)。
 関西では07~11年くらいに、この新世代の第1波の出店ラッシュを迎えます。大阪、神戸が先行して、京都が少し遅れて増えていった印象ですが、そんな街の状況をまるっと掬い取ったのが、『京阪神 珈琲の本』。エルマガジン社初?(多分)の本格的なコーヒーオンリーのMOOKとして、自分もがっつり参加させていただき、当時の保存版的な一冊として、思い入れ深い存在です。
冒頭では、複雑になったコーヒーの小難しさもあえて肯定的にとらえ、“まずは飲んでみる”ことを勧めています。
「あなたがこの本を取ったならば、コーヒーをぞんざいに扱ってはいけない。コーヒーは私たちが考えるよりもはるかに、魅力的で刺激的な存在だと知るべきだと思う。政治的だったり、哲学的だったりする背景があったり、実はちょっと難しいくらいが、ちょうど良いのだ。ムードだけじゃなくて、ずっと真面目に、だけど軽やかに味わいたい。だから、街に出てコーヒーをどんどん飲もう。目指すべきコーヒーの店をもっと知ろう。」
企画の柱として「あの人が淹れたコーヒーが飲みたい」と題して、ニュースタンダード編では、『GREENS』『Mole&Hosoi Coffee』『Café weekenders』『カフェラ大丸神戸店』『Le Premier Café』『御多福珈琲』『チッポグラフィア』『カフェ ヴェルディ』『エレファントファクトリーコーヒー』『かもがわカフェ』が巻頭に。当時急増中だった『カフェ・バッハ』の系譜を継ぐ店を挟んで、クラシック編で老舗の数々、そして新たな傾向として女子珈琲編が。『KAFE工船』『喫茶Stove』『チタチタ喫茶』、『バッハ』のコーナーに『カフェ ヴェーグ』と、それまで男子の世界だったコーヒー界の変化が現れています。
 またこの年は、関西の老舗料理専門誌『あまから手帖』初となるコーヒー特集にも参加。ニュースタンダードとして先記の店に、『直珈琲』『百合珈琲』『喫茶星霜』(現 星霜珈琲店)、『珈琲工房てらまち』などを加え、さらに三都の老舗を訪ね、先駆者の歴史も追っています。09年は、自ら関わったものも多かったのですが、コーヒー関連特集自体が祭り状態。『一個人』が先年に続いて特集を組んだのに加えて、『Pen』2009年6/1号「COFFEE or TEA?」、枻出版社MOOK『COFFEE LOVERS』、『男の隠れ家』増刊-「古典喫茶」と、毎月ほど“コーヒー”の付く記事が出ていたように思います。さらに柴田書店からは、かつての大看板『喫茶店経営』がMOOKとして復活するなど、勢いは止まりません。その中で、料理専門誌『料理通信』「コーヒーの今が分かる」特集では、この“コーヒー祭り”状態を袈裟懸けにバッサリ切った作家・嶋中 労さんの寄稿が目を引きます。
「日本もアメリカほどではないが、いまスペシャルティコーヒーのブームに沸いている。80年代後半のバブル期にボジョレー・ヌーヴォ―の狂騒劇があったが、まさにそれに似たはしゃぎぶり。私の目には不況下に咲いたアダ花のようにも映るが、停頓していたコーヒー業界にカンフル剤を打ち込んだのは事実だろう。これは日本人の抜きがたい修正なのだろうか。大勢がある一つの方向に舵を切ると、われがちにそっちの方向に向かって駆け出していく。そしてそれをマスコミが激しく煽る。厳正な審査を通過し、世界基準で選ばれた由緒正しきコーヒーとなると、もう問答無用なのだ。もっとも、猜疑心の強い私は、いまでもイワシの頭の一変種だろうと勝手に思っている」。
(嶋中労「パソコンとインターネットが生んだ史上空前のコーヒー下剋上時代」)

不況下の徒花にしてイワシの頭…とまでは言いませんが、自分でも「これ、いつまで続くんかな?」という漠然とした不安のようなものがあったのも確かです。ちなみに、ここで留意したいのはインターネットの普及との関係。
「インターネットは、自家焙煎の世界に下剋上に似た風潮を持ち込んだ。雑誌等で名前が売れれば、たとえ新参であっても、ネット通販でコーヒー豆を大量販売することができる。今やコーヒー豆はネット上で売り買いする時代で、たとえ老舗の名店でもホームページを持たない店は存在感がどんどん希薄になってゆく。ここでも「デジタル・デバイド(情報格差)」の厳しい現実がある」。
この時季、ものすごい辺境に開店する店もポツポツ現れはじめましたが、それも技術革新の賜物。とりわけ、ローカルの個人店にとっては、場所を選ばず開店できるメリットは大きかったと思います。
 さて、そんな日本の状況を尻目に、海の向こうでは次なる波が起こっていました。それをいち早く紹介したのは、やはりマガジンハウス、10年に登場した『CasaBRUTUS』「COFFEE, BAKERY & KITCHEN」特集。「新世代のコーヒー&ベーカリー」と銘打って、編集者・岡本 仁さんによるアメリカ西海岸のレポートが巻頭に。
「コーヒーブームは新世代に突入!サードウェーブと呼ばれるコーヒー熱は、ヴィンテージな焙煎機やエスプレッソマシンにこだわり、ワインのようにコーヒーを語ります。でも、おいしいコーヒーの飲み方はとても簡単です。パリの<ローズ・ベーカリー>の登場でベーカリーのトレンドも大きく変化。世界中が真似したくなる、コーヒー&ベーカリーの最先端を徹底レポート」。
恐らくですが、情報誌に「サードウェーブ」という活字が大々的に載ったのは、これが最初かと思います。日本では15年のブルーボトル上陸から始まったように思われますが、すでにアメリカでは10年以上前から“波”は起こり始めていました。ベイエリアで沸騰する、第3世代のコーヒー熱を『フォーバレルコーヒー』『サイトグラスコーヒー』『ブルーボトルコーヒー』に訪ね、「サードウェイブコーヒーってなに?」のコーナーでは「スタンプタウンコーヒー」のオーナーのインタヴューも掲載。あの『ブルーボトル』上陸狂騒曲を見た後だと、なおさら感慨深い特集です。
 一方、翌11年には、再び『料理通信』で「カフェ進化してます」特集が。井川直子さんによる導入は、先述の車の例えを分かりやすくかみ砕いてくれています。
「これまで、カフェの目的は「居る」ことにあったと思う。その空間、その器、その椅子を味わい、心地よく過ごすことが大事だった。しかし今、スモール&コンパクトなカフェ(コーヒースタンドというべきか)が、街角にメキメキ現れている。それらはたいてい、必要最低限に近い装備、キャッシュオンで注文を済ませ、サッと飲むか、持って出るか。じゃあここでは何が大事なのかというと、ほかならぬ、コーヒーそのものだ」。
ここでは、下北沢『ベアポンド・エスプレッソ』を、N.Y.由来のエポックメイキングな存在としつつ、当時の状況が端的に捕らえることができます。ほかならぬコーヒーへの注目がどんどん高まる中で、片や『Kunel』では、街に根づいた喫茶店がメインの特集が。焙煎家・オオヤミノルさんが巡る各地の店は、この時代にも変わらない普遍的な存在感を保っています。ここでも、岡本さんが「コーヒーは家では飲まない」と題したコラムを寄せていますが、先の『料理通信』のリードとは対照的です。
「町のみんなから求められている役割をきちんと果たしているコーヒー店が見つかれば、それだけでよその土地が親密に感じられる。味は二の次。そう言ってしまうと大きな誤解を招くかもしれないけれど、町いちばんのコーヒーショップが、いちばんおいしいコーヒーを出す店を意味すると、ぼくは必ずしも思わない。(中略) もしコーヒー好きという言葉が、コーヒーの酸味や苦味の繊細さがわかる人物を指すのなら、やっぱりそれを名乗る資格はなさそうだ。好きな店で飲むコーヒーを、何とはなしにおいしいと思うときが、ぼくはいちばん幸せである」。
大先輩の文を借りて恐縮ですが、この伝でいえば、自分もまたコーヒー好きではなく、強いて言えば、“コーヒーを飲みに行くのが好き”、なのだと改めて感じた次第。どんなコーヒーを飲むかと、どのようにコーヒーを飲むか。一気に台頭した新世代のコーヒーが世を席巻したことで、秘かにコーヒーを巡るスタンスも露わになっていったのかもしれません。
 一見すると、スペシャルティコーヒー一色に染まったかのようですが、取り巻く環境がガラリと変わったことで、コーヒーに対する嗜好を改めて意識する機会が増えたようにも思えます。奇しくもこの2誌の好対照な表現は、この後の雑誌特集にも、見えない揺らぎとなって表れてきます。


著者プロフィール
月刊連載『棚からプレイバック』毎月7日公開
icon_amaniga田中慶一(たなかけいいち)
珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』(@amaniga1)編集人。
1975年生まれ。関西で文筆・編集・校正業の傍ら、コーヒー好きが高じて、喫茶店の歴史から現在のカフェ事情まで独自に取材。訪れたお店は新旧合わせて900軒超。現在、全都道府県1000軒訪問を目標に活動中。2013年から「おとな旅・神戸」http://kobe-otona.jp/ で、コーヒーをテーマにした街巡りの案内人を務める。2017年に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)http://kobe-yomitai.jp/book/518/ 制作を全面担当。『甘苦一滴』のバックナンバーDL販売はこちらhttps://amaniga.base.ec/ 。