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三十九杯目 僕は今年も掃除する

 
桜の季節もいよいよ終わり、街は大型連休に向けて静かに色めきはじめる。遅咲きの桜が舞うのを見ると、二年前のあの日のことを思い出す。

「令和」という字をみたとき、綺麗な言葉だなと思った。「平成」と聞いたときは違和感のほうが大きかったから、ちょっとホッとした。

第二次世界対戦、高度経済成長、東京オリンピック、学生運動……昭和生まれの僕だけど、昭和のことはほとんど知らない。平成のほうが長く生きてるからあたりまえだけど、昭和の匂いは体に染みついている。

消費税スタート、ソビエト連邦崩壊、ジュリアナ東京オープン、公立学校の第2土曜休み、これらすべてが平成の出来事だと思うと、ちょっとクラクラする。

昭和から平成に変わるとき、僕は姉の部屋のコタツで絵を描いていた。紙と鉛筆があれば静かにしている子供だった。いつも誰かのあとを付いていく子供だった。

あれから30年、心の弱い少年は、月日の経過とともに心の弱い青年になり、いつしか心の弱い中年になった。

あのころは自分がバーを開くなんて夢にも思わなかった。親と同じように地元で公務員になるんだろうと考えていた。

この歳になると年号が変わることに興味はないけど、昭和生まれであることに誇りを持っていたいと思う。退屈とは縁遠い人でありたいと思う。

二年前の春、僕は店のバルコニーをせっせと掃除していた。グランドオープンを数時間後に控え、これから出会うたくさんの人にドキドキしていた。排水溝に溜まった桜の花びらさえも愛しく思えた。

「BARトースト」は、4月20日で二周年を迎えます。これも一重に皆様の日頃のご愛顧のおかげです。当日はささやかながらパーティーを催す予定です。お馴染みの方も、はじめましての方も、良かったら遊びにいらしてください。

令和生まれの若者がお酒を飲めるようになる頃までお店を続けるなんて想像もできないけど、来年も再来年も、排水溝の掃除をしたいと願っている。

 

 


著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスターのひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

BARトースト』のマスター
コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。