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文脈とオリジナル。

とある写真家の方が「色や構図はどんどん真似してよい。でも、(その人の作品)らしさの核となる“視点”はどうやっても同じにはならない。それは人の生きてきた道がそのまま反映されるから」という主旨の事を書かれていた。僕は常々思っていることに近く大変共感した。近いことをこの前某建築家と話しているときにも感じた。建築はアワードなどで評価する人が10人いたら個人差はもちろんあるけれども、大体評価されるものは一致するが、イラストは評価が分かれるという話になった。過去アーカイブの技法や文脈は、いわゆる評価基準に直結するものだ。過去の文脈をどう捉え、どう新しい価値を与えたか、またどういう効果を生んだかという部分だ。建築ではそれが評価基準が明確なのだろう。グラフィック・デザインも比較的その性格が強い。一方写真やイラストはよりパーソナルな部分、主観的な部分が重要視される傾向がある。とはいえ、技法や文脈といった共通の言語は、表現の共通の言語を持たないパーソナルな部分を理解することを助ける役割も果たす。

このコラムでもイラストを描いてもらっているakira muraccoが最近個展をした。それは今までの変化を続けた彼女の取っ散らかった画風が一つに集束していった個展であった。キュビズムやロシアアヴァンギャルド、未来派といった1910~1930年代のBetween The Wars(第一次と第二次世界大戦の間)期に起きた芸術運動と、ドローイング、パステルトーンのペイント、今まで組み合わす事が出来なくその都度タッチの変更を余儀なくされていたものが不意に上手く重なったのだ。もっと上手くいった事は、自分のパーソナルな部分をそれらの文脈に乗せ、絵に落とし込むことに成功したことだろう。他の人が絵のコンセプトを理解しやすくなり、評価も上々だという。絵はパーソナルな部分も大事だけれども、それを伝えるのは技法や文脈が大事だと改めて感じた展示だった。

音楽の世界でそれを強く感じるのはSaToAだ。東京を中心に活躍する女性3人によるバンドだ。彼女たちの音楽に一番感じる部分はDIYだ。そこには自分たちの出来ることだけで自分たちだけしか出せない音を作る意気込みがあるのだろう。元々メロディの良さ、楽曲のキャッチーさなどで魅力的なバンドだったのだけど、ここ1年ほどの急成長がすごい。テクニックや音楽知識がすごく向上したことにより、彼女たちのやりたかったサウンドや楽曲がより魅力的にアウトプットされている。単なる可愛いギターポップなどではなく、もっと複雑でインテリジェンスなそれだ。音的にはLampが目指す方向に似た部分があるように感じる。きっとリズムがもっと向上することでさらに目まぐるしく変化していくのだろう。僕がもしもまだ20代なら彼女たちの音楽と一緒に成長を楽しめるのに、それが少し残念だなと感じる。

 

今月の1枚:c_siphon34-2
 
SaToA「scrambled eggs」(kesakuuta market/2019)

 


毎月22日公開 月刊『片隅の音楽』
icon_siphon宮下 ヨシヲ
グラフィックデザイナー
Siphon Graphica(http://siphon-graphica.net/)主宰

1976年、愛知県豊橋市生まれ。グラフィックデザイナー、ブックデザイナー。高校生の頃より英米インディー音楽に傾倒し、大学在学中にZINE制作を始め音楽誌に音楽ライターとしてキャリアをスタート。自ら雑誌制作の全ての行程に関わりたいとデザインを学び出版社、広告デザイン会社を経て、2008年サイフォン グラフィカ設立。2013年浜松に事務所を移設。現在はブックデザインを主なフィールドとしながら、ショップなどのトータルデザイン、パッケージなども手がける。

イラストレーション:akira muracco(http://akiramuracco.me/top