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第3の波のまにまにたゆたふは

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●マガジンハウス『BRUTUS』2012年11/1号「おいしいコーヒーの進化論」
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●京阪神エルマガジン社『京阪神コーヒーの本』2012年
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●マガジンハウス『Hanako for MEN』2013年3月号「男の珈琲」
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●プレジデント社『dancyu』2013年2月号「コーヒー カフェオレ エスプレッソ」
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●日経BP社『日経おとなのOFF』2013年11月号「大人のためのコーヒー案内」
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●京阪神エルマガジン社『Meets Regional』2013年7月号「コーヒーサードウェーブ」
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●CCCメディアハウス『Pen』2014年10/15号「1冊丸ごとおいしいコーヒー」
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●マガジンハウス「BRUTUS」2014年6/15号「喫茶店好き。」

 07年以降、変わった、変わった、と喧伝されてきたコーヒーの世界。5年を経て、改めて「コーヒーは変わったか?」と投げかけたのは、またも『BRUTUS』でした。12年の特集「コーヒー進化論」では、巻頭の長~い導入文で、この間の変化がつづられています。日本のコーヒー史をいったん振り返って後、いきなりこう来ました。
 「2012年、スペシャルティコーヒーはもはや“スペシャル”ではない」と。
大胆な言い切りですが、当時、自分の周りでも何度か耳にしていました。とはいえ、本来のスペシャルティグレードは、厳密にいうとコーヒー全体の数%なので、依然としてスペシャルなものではあります。ただ、言葉が先行して一気に広がったこともあって、それこそ耳タコになっていた状況を考えれば、その気分は分からなくはないですね。逆に言えば、もはやそれだけでは差別化できないくらい浸透したともいえます。
 文中には、色ベタ白抜きで強調されたトピックがいくつかあります。世界的には、ワインと同様に土地ごとの土壌・天候などの違いによる味の個性=テロワール。西海岸からN.Y.へと広がったサードウェーブ、ヨーロッパにおける北欧の影響力、産地と豆の理解・フレーバーの表現を重視し始めた競技会、海外でのハリオV60の流行とドリップの再発見。国内では、立ち飲み・テイクアウトメインのスタンドの急増、「スターバックス」の洗礼を最初から浴びた“スペシャルティ・ネイティブ”世代の台頭といったところ。俯瞰すると、カフェ時代と比較して「空間を売る」→「一杯(のコーヒー)を売る」スタイルへのシフトが顕著になりました。
 この短期間に“ネイティブ”世代を出し、何となれば、07年の『BRUTUS』のコーヒー特集をきっかけに業界に入った人もいたというから、この5年間のインパクトの大きさたるや。導入文はこう結ばれます。

 「『スペシャルティコーヒーを置くことが特段にスペシャルでもなくなってきた』時代だからこそ、今後は豆のキャラクターへのより深いアプローチが重要視されるでしょう。レベルの上った豆を前提に、焙煎や抽出でも多くの試行が繰り返され、そこからトレンドも生まれるはず」。
 
 特集トップに登場は、日本に北欧の最先端を持ち込んだ「フグレン トーキョー」と、ノルウェーのバリスタチャンプ、ティム・ウェンデルボーをはじめとした北欧のキーマンの紹介。さらに、「今を知る17のキーワード」が挙げられていますが、うち6つを抽出器具が占め、ゲイシャ、パカマラといった新たな品種、それに合わせたフルーティーな浅煎りや完全熱風焙煎の普及も話題に。一見、遠い世界のように思えますが、浅煎り志向と抽出器具の多様化は、当時の日本でも身近に感じられた大きな変化でした。
 続く「東京新世代の店」には、「ノージ―コーヒー」「クリーム オブ ザ クロップコーヒー」「カフェ オブスキュラ」、「猿田彦珈琲」「表参道コーヒー」「アマメリアエスプレッソ」「オニバス」など、まさに“ネイティブ”世代の先駆けがズラリ。5年前ともまるで違う顔ぶれに、変化の早さを感じます。

 そんな中、関西では好評を博したエルマガジン社の『京阪神コーヒーの本』第2弾が登場。こちらも冒頭で、コーヒー界の活況を伝えています。
 「バリスタブーム、エスプレッソブーム、シングルオリジンの台頭…。コーヒーの話題は尽きるどころか年々増すばかり。喫茶文化の根付いた京阪神エリアだからこその、昔ながらのドリップコーヒーから、最新鋭のマシンでの抽出まで。今まさに、関西コーヒー界はかつてない勢いを見せている。小さなコーヒーの実から生まれる、大きなコーヒーカルチャーの波。さまざまな思いが込められたコーヒーとの出合いを求めて、まずは街へ出かけましょう。さあ、良い香りのするあの場所へ」。

 特集の幕開きには、当時、自家焙煎にリニューアルした「WEEKENDERS COFFEE」「Unir」「OGAWA COFFEE THE CAFE」(閉店)と、スペシャルティコーヒーのメインストリームを行く店が並び、エスプレッソやコーヒースタンドの紹介が続きますが、この後が『BRUTUS』とはひと味違います。
 「SONGBIRD COFFEE」「アバンギルド」など、異なるロースターの豆からチョイスできる「セレクトビーンズカフェ」に、「Mole & hosoi coffees」と札幌の「森彦」、「喫茶星霜(現・星霜珈琲店)」と「赤い実コーヒー」、「喫茶Stove」と大分「豆岳珈琲」など、特定のロースターと店が結びついた、「ここだけ限定オリジナルブレンド」を紹介。かつての「茜屋珈琲店」×「萩原珈琲」のような店の関係、さらに発展してロースターの特色で豆を選ぶスタイルは、当時、関西で盛んだったと記憶しています。さらには、ネルドリップへの回帰といった話題もあったりと、独自の広がりを見せていました。
 余談ですが、同誌のなかで一番の労作と言えるのが、「クロニクル・オブ・関西エスプレッソ」。京阪神のエスプレッソの展開を丹念に辿った年表は、似たような本を作った身として、その手間ひまに敬意を表します。

 『京阪神コーヒーの本』では、女性ロースターの活躍も取り上げられていますが、逆に、あえて“男の珈琲”を謳った異色の特集を展開したのが『Hanako for MEN』です。ある種、昭和的なノリはリードを見れば瞭然。

 「働く男たちの朝、昼、晩…。そこにはいつも珈琲が必要だ。
珈琲。それは働く男にとって他のどの飲み物にも代わることのできない特別な存在だ。(中略)働く男にとって珈琲とは、目覚ましであり、会話の潤滑油であり、覚醒にも鎮静にも作用する。都庁が国際フォーラムになり、片手の新聞がスマホに変わっても、その1杯の本質は変わらない。だから特集『男の珈琲』」。

 一見、懐古的な喫茶店が中心かと思いきや、巻頭の「こいつの1杯。業界噂の18人。」に登場するのは、「茶亭 羽當」こそ老舗だが、他には「オーバカナル」「トンガコーヒー」「カフェテナンゴ」「フグレン~」「アマメリア~」「カフェ オブスキュラ」と、仕立ては違えども顔ぶれは至って今様。「東京 大阪 59名焙煎紳士録」でも、「堀口珈琲」「丸山珈琲」の2巨頭を筆頭に、新旧織り交ぜて。大阪からは「タカムラワイン&コーヒー」「カフェバーンホーフ」「Unir」を筆頭に、紳士録といいつつ紅一点、四天王寺「蕾珈琲」の女性マスターが入っているのはご愛敬?
 圧倒的に女性に支持を得たカフェブームの時代には、カウンターとして『男の隠れ家』などの懐古的な特集はありました。思い返せば、この時の“男性”イメージはコーヒーや老舗喫茶が担っていました。ただ、この頃には、同時代の主役がコーヒーに変わっています。確かに、女性のロースターやバリスタは増えましたが、むしろ雑誌に登場する店主の顔ぶれは男性多数へと戻っていった感があります。かつてのカフェ特集では多くの女性オーナーを見かけたのに、例えば『BRUTUS』の「東京新世代の店」を見ると、オーナーはすべて男性です。この特集は、再び“コーヒー=男性”イメージが復権したことを示していたようにも見えます。

 さて、『Hanako for MEN』と同じ年には、『dancyu』『日経おとなのOFF』にて初の本格的なコーヒー特集が登場。さらに、『Meets Regional』でも「コーヒーサードウェーブ」を特集。「ついに関西にもやってきた、日常遣いのスペシャルな一杯。」と、新たな波の到来を告げています。
 「普通のコーヒーがスゴくて、あたりまえ!
 スペシャルティという言葉がそれごど珍しくなくなって幾数年。今度はサードウェーブなる言葉が、騒がれ出してきた。第3の波ってなんじゃそりゃ? (中略)要は日常遣いのコーヒーが超上質になったということ。関西にもひしひしと拡がる、そんなイマな流れをグビグビ追いかける特集です。」

 この年の京阪神には、08年に続くコーヒー店の第2次開業ラッシュが到来。特集トビラは、まさに当時のトレンドを体現する「タカムラ ワイン&コーヒー」を筆頭に、「ブルックリン ロースティングカンパニー」「オールデイコーヒー」「フッドカフェ」など、進む大阪のN.Y.化を紹介。さらに、ショップインのコーヒースタンドや新世代マイクロロースターに加え、「関西のコーヒーは山本にまかせろ」と題して、「Unit」「Hiro Coffee」の両山本オーナーも登場し、誌面を賑わせています。また、「哀愁のエスプレッソ」として、ついぞ浸透しきらなかったエスプレッソへの視線も味わい深い。 
 そして、本連載でも再々取り上げましたが、同誌の妙味はモノクロページにあり。「デミタスという濃密な世界」「ブレンドの時代は終わったのか?」、鼎談「コーヒー・カレー・ラーメン同一人物説」など、斜めからの視点や逆張りの企画に含まれる、トレンドへの相対化は同誌の真骨頂です。
 そして再びカラーページに戻り、『京阪神コーヒーの本』でも少し触れられたネルドリップ回帰、抽出器具による味比べと来て、注目は「ネオ純喫茶」。同時期には、京都「喫茶マドラグ」、神戸「モトマチ喫茶」、大阪「ニューMASA」など、古い喫茶店を継承した店が各地に現れました。この少し前から、「まさか!?」と思われる老舗の閉店が相次いでいた関西では、土着の喫茶文化が強いせいか、新たなコーヒーの波への期待と、失われつつあった喫茶店への危惧が、ないまぜになっていたように感じます。

 そんな折、14年にビッグウェーブ到来のニュースが。サードウェーブの旗手「ブルーボトル コーヒー」の日本進出の話が駆け巡ります。この年は、あちこちの媒体で、創業者のJ・フリーマンの顔を見かけました。同年の『Pen』「1冊丸ごとおいしいコーヒー」もその中の一冊ですが、この一報への期待に満ちています。

 「いま東京には、「コーヒー」があふれている。アメリカ西海岸のサード・ウェーブの味をいち早く取り入れたショップやスタンドが続々とオープンし、ノルウェー、フランス、ニュージーランドと、世界の人気カフェが相次いで上陸。来年には、ついにサード・ウェーブの旗手、『ブルー・ボトル・コーヒー』が、待望の東京進出を果たす。そんなコーヒー気分が最高潮のいま、Penは「おいしいコーヒー」を大特集。世界の最新事情から、さらにおいしく味わえるディープな知識、テクニックまでを徹底紹介。コーヒー好きにはたまらない、フレッシュな情報をお届けします。」

 確かに14年は、フランスの「クチューム」や、ニュージーランドの「オールプレス エスプレッソ」など、アメリカ以外の国からも、ご当地カフェの日本発進出の話題が相次ぎました。またメディアにおいても、この頃はコーヒーが書籍のみならずマンガの世界にも広がっています。バリスタを主人公に据えた、その名も『バリスタ』(10~13年『週刊漫画TIMES』に連載)に続き、14年には、“コーヒーハンター”こと川島良彰さん監修の『僕はコーヒーが飲めない』が、なんと『スピリッツ』で連載開始。「ここまできたか」の感があり、この後もコーヒーがタイトルになったマンガは増えていきます。
 さて、「ブルーボトル」に話を戻すと、14年にJ・フリーマンが登場した雑誌で、最も印象に残るのは、『BRUTUS』「喫茶店好き。」特集です。「コーヒー進化論」から2年後に、いきなり真逆を行く特集ってどないやねん!? と思いましたが、今見れば「茶亭 羽當」でくつろぐJ・フリーマンの巻頭の画は、新たな黒船来航以上の深い意味を体現していた気がします。そのリードはこうです。

 「あなたには、行きつけの喫茶店がありますか?
喫茶店は日本が世界に誇る文化です。サードウェーブに影響を与えるような、一杯のコーヒーに徹底的にこだわる店があれば、ナポリタンにサンドイッチ、パフェやプリンなど独自に進化した“喫茶店フード”自慢の店もある。店主ひとりで切り盛りする静かな店があれば、喧噪に身を委ねたいような店もある。
ひとことで喫茶店といっても、そのスタイルはさまざま。いい喫茶店に共通することがひとつだけあるとすれば、「気軽に行けて、ホッとひと息つける」こと。お気に入りの喫茶店に行くことで、日々の生活に句読点を打つ。それは小休止だったりし、リセットだったり、リバイブだったり。馴染みの街にひとつ、ふたつ。行きつけの喫茶店を持つことで、人生はさらに豊かになる。あなたもそんな一軒、見つけてみませんか?」

 J・フリーマンが、日本の喫茶店にインスパイアされたのは、よく知られたこと。一見、最新のスタイルをもたらしたように見えて、自家焙煎でペーパードリップ、目の前で一杯立てするスタイルだけ取り出せば、珍しいものではありません。むしろ「ブルーボトル」上陸を機に、改めて喫茶店の存在が注目されるようになったことの方が、影響が大きかったように思います。
 誌面では、著名人による「私の好きな喫茶店」、「若い喫茶店主に会いに行く。」のコーナーに続き、ここでも「名喫茶復活物語」として、京都の「喫茶マドラグ」と東京「はまの屋パーラー」のストーリーが紹介されています。そして特集の掉尾は、「ブルーボトル」上陸が分かる前年に惜しくも閉店した、「大坊珈琲店」マスターへのインタヴュー。行く人・来る人ではないですが、J・フリーマンに始まり、「大坊珈琲店」マスターに終わる展開は、時代の移り変わりを象徴しています。
 喫茶店がピーク時から半減以下になっている状況で、シアトル系、スペシャルティコーヒー、と次々に新たな波が打ち寄せ、当時は自分も含めて、“昔ながらの喫茶店は、いよいよなくなるかも”という何となくの危機感があった気がします。そこへさらに「ブルーボトル」がやってきて、もはやこれまで…と思ったら、逆に助け船となって喫茶店の魅力が再発見された、というのは言いすぎでしょうか。近すぎるものの魅力には気付きにくいもの。外から言われて初めて気づくのは、日本文化の再評価でお馴染みのパターンです。「ネオ純喫茶」的な店が増えてきたのは、かつてを知る世代の危機感と共に、今の世代が独特のスタイルを再発見したことも大きかったように思います。

 ここで、「若い喫茶店主に会いに行く。」の冒頭が印象的です。
 「そこがカフェだろうが、サードウェーブのコーヒースタンドだろうが、コーヒー専門店だろうが、喫茶する心を持った人々にとって、くつろいだり気分を変えたりできる場所はみな喫茶店なのだと、ここではあえて乱暴に言い切ってみる。居心地のいい喫茶店には顔の見える店主がいるものだ。カウンターの向こう側に立つ彼らは何を考えて、人々の喫茶する心を満たそうとしているのか、コーヒーを飲みながら耳を傾けてみよう」

 店の業態がどうあれ、「喫茶する心」の違いによって、スタンドも喫茶店になったり、喫茶店もカフェになったり。コーヒーにまつわるあれやこれやが、一気にあふれ出した末に、新も旧も関係なくフラットになった世界が現れはじめます。何となく時代の主流のようなものがあった時代から、コーヒー豆や焙煎、抽出器具、店のスタイルまで、どんどん増えていく選択肢を選び取る際に、“正解”があるとすれば、それは各々の“好み”にしかありません。コテコテの純喫茶から最先端の波まで、時代を超えてあらゆるコーヒーの楽しみが出揃った感がありますが、それゆえの悩みもまたあります。とりわけ、カテゴライズを好む雑誌にあっては、シームレス化するコーヒーの世界を捕らえる視点もまた、各誌で細分化していきます。


著者プロフィール
月刊連載『棚からプレイバック』毎月7日公開
icon_amaniga田中慶一(たなかけいいち)
珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』(@amaniga1)編集人。
1975年生まれ。関西で文筆・編集・校正業の傍ら、コーヒー好きが高じて、喫茶店の歴史から現在のカフェ事情まで独自に取材。訪れたお店は新旧合わせて900軒超。現在、全都道府県1000軒訪問を目標に活動中。2013年から「おとな旅・神戸」http://kobe-otona.jp/ で、コーヒーをテーマにした街巡りの案内人を務める。2017年に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)http://kobe-yomitai.jp/book/518/ 制作を全面担当。『甘苦一滴』のバックナンバーDL販売はこちらhttps://amaniga.base.ec/ 。