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「基準“音”(その1)」

ノートルダム大聖堂の火事がやっと鎮火した。被害状況が報告される中、多くの文化財とともに、パイプオルガンも被害を免れたというニュースを見ながら、ノートルダムのパイプオルガンのピッチはどのくらいの高さなのだろうと思ったのは、以前、古楽奏者の方から聞いた話を思い出したからだ。
中世ヨーロッパにおいては、町ごとにピッチ(音高=音の高い低い)が異なり、その基準とされていたのは、その町の教会のパイプオルガンのピッチであったのだという。現在は音楽で表すところのピッチと音響で表すところの周波数の整合がとられ、1939年にロンドンで行われた国際会議においてA(ラの音)=440Hzと定められているのだが、そのA音が390Hz〜470Hzくらいの幅で異なっていたという。またそのピッチの高い低いにはその町の財力が関係しており、財力のある町はパイプをより太く長く作ったためピッチが低くなる傾向にあり、逆に財力の乏しかった町はパイプを細く短く作ったため、ピッチが高くなる傾向にあったのだという。
さて現在A=440Hzと定められた基準について、実際それらが厳密に守られているわけではなく、コンサートピッチとしてはA=442Hzが採用されることが多く、ヨーロッパの交響楽団ではA=444〜445Hzが採用されている。また、古楽ではA=415Hzで演奏されることが多くベルサイユピッチではA=392Hzに調音されることもある。ちなみに、A=440Hzの場合、半音低いG♯≒415Hzで1音低いG≒392Hzとなるので、古楽の場合そのまま半音もしくは1音低い音をさすことになる。
日本でA=440Hzが採用されたのが第二次世界対戦後の1948年というから、70年ほどの歴史しかない。しかし、この基準が浸透し一般に根付いていると感じるのは、A=440Hzを知らなくとも、多くの人は音高を音名として言い当てる能力について「絶対音感」という言葉として知っているらからだ。実際「絶対音感」とはもっと広義な意味合いを持つが、狭義の意味で、音高=音名とする場合、そこにA=440Hzという基準がまずあり、更にその前提として西洋音楽における十二平均律による音高を指すからである。
(つづく)

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著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm