title_saeki

四十一杯目 僕の使命

 
雨や湿気の多い日が続くと、気分が落ち込む。イライラする。低気圧は人の心に少なからず影響を与える。

男は40代半ばで鬱になると誰かから聞いたことがある。本当だろうか。

仕事にやる気がでなかったり、休日に何もする気がおきなかったりするらしい。なんだ、そんなのいつものことじゃないか。

自分に同情する人は、たいてい解決の糸口のない悩みを抱えている。どこまでいっても、自分自身が悩みの発端だということに気づかない。 

プライドを捨てて自らの過ちを認める勇気を持てば、たいていのことは解決する。でもそれはとても難しい。

過ちを認めることと謝罪をすることは少し違う。

謝罪には二通りあって、「迷惑をかけて本当にすまない」という謝罪と、「こんなに謝ってるんだから許してやってくださいよ」という謝罪。後者の人間とは、僕は付き合わないことにしている。

自分に同情する人間ほど簡単に土下座する。土下座すればたいていのことは許してもらえると思っている。人に懺悔をすると、当人は自分の罪を忘れられるが、相手はそれを忘れないということに気づかない。

周りの空気に流されて、大丈夫じゃないのに大丈夫って言ってしまう。これって大人の脅迫だ。

絶対怒らないから本当のことを言ってと言われて本当のこと言ったら、ものすごく怒られる。これも恋愛の脅迫だ。

仕事を転々とする人を笑う人がいるけど、仕事で自分を変える人とどっちがカッコ悪いんだろう。

人は生きるために愚痴を言う。店で仕事の愚痴をこぼす人を見ると、生きる力を養っているんだなと思う。

深呼吸って、吸うことより吐き出すほうが大事。そんなとき、お酒の酔いはちょうどいい言い訳と潤滑油になる。

窓に雨粒がぶつかる音を聴くと、少し優しい気持ちになれる。窓がある店で良かったなと思う。

人は泣くとき涙を流すが、笑顔で泣いてる人もいる。そんな人の傷を癒すことのできる場所でありたい。

常連さんも、初めてのお客さんも、トーストに来たら必ず一度は笑って帰ってもらえますように。それがきっと僕の使命。

アハハと笑えば、気分が晴れる。
朝まで飲めば、雨も上がる。
来週は店に紫陽花を飾ろう。

 


著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスターのひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

BARトースト』のマスター
コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。