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「新木場でプロレスと焼鳥」

このコラムではアイルランドだけでなく、音楽、酒そしてプロレスといった私の個人的趣味のトピックをおもいつくままに書いているが、見返すと焼鳥屋の話題が何度か出てくる。今回も、新木場「1stRING」にプロレス観戦に行くと帰りに立ち寄る、お気に入りの「鳥やぶ」という焼鳥屋の話。
「1stRING」は新木場にあるプロレス専門の興行場である。キャパ300人程の小さな会場ながら年間興行数は330を超え、ほぼ毎日と言っていいほどプロレス興行が行われている。しかし業界を牽引するようなメジャー団体の興行はなく、いわゆるインディ団体と呼ばれるような興行がメインで、まさに知る人ぞ知るプロレスのメッカである。インディ団体といっても様々な規模であるが、どの団体の興行も一様に「1stRING」ではレスラーと観客の距離感が色々な意味で近いことが特徴である。東京ドームで年に一度行われるような超ビッグマッチのような非日常からすると「1stRING」に行き慣れたプロレスファンにとっては、日常の中の小さな非日常とも言えるのではないだろうか。
「1stRING」での観戦後は自然と新木場駅下にある焼鳥屋の「鳥やぶ」に向かう。駅の高架下にある飾り気のない25席ほどの大衆店で、近辺に勤める会社員が会社帰りにごく普通に立ち寄るような焼鳥屋だが、その焼鳥の味は普通以上、いやクオリティが高い。丁寧な仕事と熟練の焼き、炭焼きでないところは特別感がなくてよい。5~6本まとめて盛られてくる焼き鳥の味にいちいち講釈する客はいないし、どこかの高級店と比較するような客もいない。時にこのクオリティーに気づいていないのでは?と思ってしまうほど店内が騒がしいこともあるが、3回に1回は満席で入店できない盛況ぶりからすると、「知っている」常連客が多いのだろう。
そんな「鳥やぶ」である夜、閉店時間が近づいたころ、現場作業服をきた年配の男性が1人カウンターで酔い潰れて寝始めていた。店員から「お会計お願いします」と何度か声をかけれるが、起きる気配はない。となりに座っていた私はその男性に「先輩!今日も現場暑くて疲れましたね。そろそろ帰って寝ましょうよ」と声をかけてみた。すると、男性は「あぁ。そうだな。」と言って会計をを済ませると「じゃまた」と帰って行った。
新木場に行く度、「1stRING」と「鳥やぶ」の日常の中にある小さな非日常として寄り添う景色に心躍らせている。


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm