bn_shirotsuki

手放す自由。

或る日、無理をして久しぶりに知人に会いに出かけた。

面倒くさがりだから、無理をして会いに行くのは珍しいことだ。
でも、そうしてでも久々に会いたいと思った。
数年ぶりの再会だったが、穏やかで思慮深い彼女の印象は変わっておらず、やっぱり素敵な人のままだ。
彼女がふと「人付き合いって難しいね。断捨離ブームだけど、お付き合いにも断捨離が必要なのかも」と、口にした。
「うん、必要だと私は思う」と答えた。

今やすっかり市民権を得た、断捨離って言葉はありとあらゆる場面に顔を出す。
私はなかなか荷物の断捨離が進まずイライラしている最中だけれど、とっとと断舎離したのが[固定観念]と[無理な人付き合い]

思い込みや先入観、レッテルという固定観念って、つくづく恐ろしいと思う。
最近目にする同調圧力も、こうした固定観念に起因するものも多い。
町内や職場など、ある特定グループでの意思決定を行う際、少数意見を持つ者に対し、暗黙のうちに多数意見へと合わせさせる圧力のことを意味するが、私は子供の頃から少数意見派になりがちだった。
「そんなのおかしい」と言われたら、「おかしいと思うほうがおかしい」と返すほど、同調圧力に無頓着だったゆえ、いじめられること多々。

でも思えば、ある意味私も多数派に対し、「こうあるべきだ」「こうすべきだ」という私の思い込みを押し付けたがゆえに、トラブルになったのかもしれない。
苦い思いを繰り返しながら少しは学んだためか、歳を重ねるにつれ、それらから解放されて自由になった。
今は「まあ、そういう意見もあるし、側面もあるな。私は違うけど、それはそれでいいんじゃないのか」と思えるから、ゆるゆると生きていられる。
それができなければ、私はきっと心のどこかが壊れて病んだだろう。

思い込みや先入観という固定観念は、生き辛さを生む。
他者を傷つけるだけでなく、その刃は自分にも向けられるからだ。
「女性は結婚して子供を持つことが幸せ。結婚相手は3高が理想」と、年長者が真顔で説教爆弾を悪意なく放つこと(むしろ良かれと思っている)が普通だった時代に、私は結婚もせず、しかもフリーランスで仕事をしていたので変わり者扱いだった。
一般的な固定観念から外れた生き方だったから。
でも衝撃的だったのは、仕事仲間でもある男性カメラマンが放った言葉だった。
「編集とかこの世界にいてフリーランスの女って、気が強くて面倒な人が多い。だから周りを見ても、ほとんど結婚できてない。若いうちはいいけど、年取っていつまでも一人って不幸だってみんな心の中では思っているよ(みんなって誰?) キミもそろそろ結婚したら?」と。
彼は私のためにと思ってアドバイスしたつもりだろう。
不思議と腹は立たなかったけれど、「ああ、同じ世界で仕事をしていてもこうなんだな」と驚きと同時に、妙に腹が据わった。
しかし「あなたのために」ほど、ありがた迷惑なものはない。
ちなみに、この「あなたのために」は、優しい顔をして己の正義と観念を無理強いする行為だと思っている。
本当に無償の愛を相手に注ぐ覚悟がある人が言えば、また話は別かもしれないが。
だから、この手の人との付き合いは断つことにしている。

そんな生き方だから、編集の仕事をしながら[好事家 白月]という店を持つことも、抵抗がなかった。
あまりいい印象を持たない人の意見も耳にするが、それもまた仕方ないと思う。
今は実店舗を持たずに(移転先を探しつつ)、イベントをしながら次の展開を考えているけれど、「たまに、どこかで開く店」ていうのもアリだと思っていて、「うちでなんかやって」というお誘いに、ふらりと乗っかることも楽しんでいる。
「実店舗があり、決まった営業日がなくてはならない」という固定観念から離れると、ショップという新たなツールを、もっと楽しんで使えるし、幅が広がるように感じている。

知り合いの中にも、店舗を持たず洋菓子のようなルックスの和菓子を作る作家がいたり、雑誌でばりばり仕事しながら、予約制で家族写真を撮影する写真館を営むカメラマンもいる。
再婚した友人は、パートナーと遠く離れながら、週末婚ならぬ季節婚で円満。主に相手の仕事の閑散期となる冬だけ、一緒に暮らすという面白い結婚生活でかなり羨ましい。
彼らは固定されたイメージの中で活動せず、自分で選び取ったスタイルで生きていて、それを支持してくれる人たちと円満な人生を歩んでいる。
もちろん、受け入れられないという人もいるだろう。
でも、すべての人に受け入れられ、愛される必要はないし、また「受け入れろ」と相手に押しつけるのも話が違う。

何かがうまくいかないときは、固定観念を捨ててまっさらに始めてみるのに最適なタイミングなのかもしれない。
今回、楽しませてもらったこのコラムから離れるから、次はまた違うものを手にする気がする。
手放すことは、悲しいことじゃない。


著者プロフィール
月刊連載『或る日。』毎月20日公開
prof_shirotsuki内藤 恭子
ライター・編集などの仕事をしながら、不定期にオープンする<好事家 白月>を主宰。
https://www.instagram.com/shirotsuki_kyoto/