良いお店ってなんですの?

恋人やパートナーとのお店は家族や友だち用、仕事仲間や取引先向けとは違うし、普段着で行けるお店やご褒美のお店は自分のためにとっておきたいーー。

スタッフや経営者にかぎらず、だれしも1度は悩んだことがあるでしょう。

美味しいお店に限っても、ジャンルや味付けの癖、コストパフォーマンス、立地、格式、店主の人柄、なにより、自分自身の好みに左右されるというもの。

結局、良いお店はひとの数ほどあるのかもしれません。

むかし、さる美術評論家の方に教わったことがあります。

作品鑑賞は、作者の経歴や技法、制作年代、主題などの周辺情報を蓄えて、美術館の音声ガイドのように解説や解釈するのとは違う。

大切なのは、何が作られているかではなく、どう作られているかを観ること。

物の美しさは、まず、すみずみまで無駄なく神経が通っているかだ、と。

だから私も、コッペパンをただ並べるのではなく、いかにより良くならべ重ねるかにいつも苦心するのですが、

それはさておき、良いお店も、美しいお店と発想を変えてみると、いつもと少しちがった街の風景が観えてきます。

わたしが京都で、店内に入っただけで、ああ、良いなァ、と心からおもえるお店がいくつかあります。

たとえば、御幸町の王田珈琲専門店、今熊野の Cafe nido 、柳馬場の Yu La La 、東洞院の酒BARよらむーー。

いずれも、だらッとした日常の場とは違い、ピリリと空間が緊張し、別世界に足を踏み入れた驚きと感銘に撃たれます。

お洒落なインテリアは少ないかもしれませんが、設計はもちろん、照明の落とし方からお店の色調、椅子の高さの微妙さまで、アイデアと取捨選択の試行錯誤がお店のすみずみにまで息づいています。

もちろんそれは、ル・プチメックの各店舗にも、なにより、"ココ"にいえることでしょう。

Do It Yourself という言葉をご存知でしょうか。

DIY とは、文字どおり、自分の手で作ること、工場生産の既製品を高く買って済ますのではなく、自分自身の手と道具でほんとうに必要な物を安く作ろうの意。

この精神は、とりわけ、海賊ラジオや自己出版の雑誌、パンク・ロックという音楽ジャンルとして、1960年代以降の若者文化と密接に結びついてきました。

たとえば、年商12億ドルと噂される多国籍複合メディア Vice も、もともとは、カナダのモントリオールの薬物中毒の若者にオタワのパンク青年が出会うことで生まれました。

以下の動画は、Vice があらたにはじめた料理番組のカナダシリーズで、全身タトゥーのシェフ、マティ・マットソンが母国の素晴らしい素材や生産者をおもしろ可笑しく再発見していくもの。

ケベックにスポットをあてたこの回では、日本語字幕はありませんが、養蜂場でハチミツワインを味見したり、希少な野菜を作る農場を訪れたりしています。

DIY は、小さいお金と規模だからこそ、少ない制約で自分が本当におもしろいと思えるお店やコンテンツを実現させられる闘い方なのでしょう。

今回ご紹介するのは、おなじくケベックのモントリオールで活動するインディーロックバンド Half Moon Run 。

マティの料理番組にも多数のフランス語話者が登場していたように、ケベックはもともとフランスの植民地だったこともあり、フランスと英語圏の文化が複雑にいり混じった土地柄です。

おととし、カンヌの審査員賞を弱冠25才で受賞したゲイのケベック人映画監督グザヴィエ・ドランの活躍にもあらわれているように、ケベック文化の複雑さは、少なくとも、アーティストにとっては良い具合に働いているようです。

Half Moon Run のように、私も、両手足と口を器用にバラバラに動かせればサンドの仕事もはかどるのになァとおもう今日この頃。

ひょっとしたら、未来の厨房では、3、4本の腕をもったキッチン一体型のロボットが働いているのかもと想像するけれど、それはまた、別のおはなし。

京都スタッフ 緒方勇人