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第4話 知らない町を歩く

 香川県の丸亀市に引っ越した友人を驚かせようと思い付き、誰にも何も言わずに高松市へ行った。彼はベーグルを焼いていて、近所の人のための朝食用にと、毎日7時に店を開けているようだ。日帰りで行ける距離ではないから、前日から泊まる必要があるのだが、丸亀に宿を取ると気づかれる可能性が高い。それで電車で50分ほど離れた高松のホテルを予約したのである。

 翌朝、高松駅から午前6時台の電車に乗り、7時半頃に讃岐塩谷で降りた。そこから歩いて15分はかからないはずだ。考えていたよりも電車を降りる人は多かったけれど、ぼく以外みんな陸橋を渡って反対側の改札口に向かっていく。少し不安になってスマートフォンの地図を確認した。間違ってはいない。

 歩き始めてすぐにチェーンのハンバーガー屋があったので、とりあえず朝のコーヒーを飲むことにした。店内はがらんとしていて、テイクアウトの出来上がりを待っているらしい客がひとりだけ。ぼくは再びスマートフォンで道順を確認し頭に叩き込んだ。ずっと地図を覗き込みながら歩くと、せっかくの風景が見られなくなるから。

 川沿いの道を歩いた。住宅と田畑。のんびりとした空気。そして朝にしか見ることのできない美しい光。良い一日になりそうな予感に満ちている。車がときどきぼくを追い抜いていくが、歩いている人は誰もいない。

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 そのうち鉄塔が見えてきた。友人のインスタグラムにポストされる、店から見える風景にはいつも鉄塔が写っている。それを印象的に感じていたので、嬉しくもなり安心もした。こんな角度で畑と鉄塔と送電線が見えていたなと思い出しながら、このあたりだろうか、あのあたりだろうかと、ときどき立ち止まってはキョロキョロする。

 風景写真の記憶だけを頼りに歩いていたら、結局は道に迷ってしまった。しぶしぶポケットからスマートフォンを取り出して、正しい道に戻る。そしてようやく小さな看板を見つけた。ドアを開けて中に入ると、友人が大きな声を上げる。朝のサプライズは大成功。ベーグルを四つ買った。


著者プロフィール

月刊連載『朝の楽しみ』毎月1日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。