VRの未来と二十億光年の孤独。

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする

「二十億光年の孤独」と題されたこの詩は、合唱曲や国語の教科書などでお馴染みの谷川俊太郎の代表作です。

「万有引力とは/ひき合う孤独の力」とする谷川さんのこの作品に、私は人間のひとかけらの真実の輝きを覚えます。

人類をほかの地球上の種族と決定的に分ける特徴はなんでしょうか?

ひとつは、人間だけがほかの動物を家畜として飼い慣らしてきたこと。

イヌたちが人類との数万年間の共同生活によってオオカミから分化したように、私たちは数多くの動植物といわばパートナーシップを結んできました。

それも、食用という実利的な目的を越えた強い親愛の情によって、です。

犬猫をはじめ、牛や馬などの大型の家畜動物から蛇やトカゲといった爬虫類、はたまた家の蜘蛛などに示す人間の愛情や尊崇の念を思うと、人間の本能には癒しがたい深い孤独がプログラムされていると考えざるをえません。

実際、私たちが日常的に使うスマートフォンアプリは、Line や Twitter や Facebook あるいは Instagram のように、友だちや同じ趣味のひとたちとコミュニケーションを楽しむものばかり。

SNS疲れやLINE疲れが起きるのは、私たちがコントロール不能な孤独の渦に巻き込まれているからでしょう。

結局、人間とはどの動植物にもまして常に繋がりを欲しながら、すでに複雑に繋げられている哀れな生きものです。

私の大好きな海外ドラマに『ハンニバル』があります。

1991年の映画『羊たちの沈黙』で一躍有名となった人食いハンニバルことレクター博士の若い頃を描いた本シリーズは、バレエダンサー出身の人気俳優マッツ・ミケルセンがレクターを演じ、天性の強烈な共感能力によるプロファイリングを武器に猟奇殺人事件を次々と解決するFBl特別捜査官ウィル・グレアムとの必死の騙しあいと奇妙な友情がテーマです。

おもしろいのは、だれとでも繋がり過ぎてしまう主人公のウィルが出会う狂気の殺人者たちの多くは、私たちにとっての普通なやり方では繋がれない、つまり、あまりに残酷で常軌を逸した繋がり方を欲する深い孤独を抱えた人物として描かれていることです。

それは、高い知性と深い教養で自分の素顔を守り抜いているレクター博士も例外ではありません。

どんな人間の心とも容易に繋がれるウィルと、どんな人間とも友情と理解の可能性をあきらめていたレクターが出会うとどうなるかーーもしもこのドラマにたんなるサスペンスの枠を越えた深い感動があるとしたら、それは、私たちの人生の見過ごされている苦い真実に光を与えているからでしょう。

繋がりたいのに繋がれない、繋がりたくないのに繋がってしまう。

人間関係の苦しみは、突き詰めればこのままならさの両極に収斂されるでしょう。

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引用元1:HANNIBAL IS DISTURBINGLY DARK, YET AMAZING
引用元2:“Hannibal” , Season 2, Episode 6, “Futamono” review

VRは、前回の記事で少し触れたように、没入型のヘッドマウントディスプレイを装着して360度の仮想現実を体験する新しいテクノロジーです。

すでに、VR革命の嚆矢となった Oculus Rift とPCゲームの強力な販売プラットフォームを築いた Valve の HTC Vive の出荷がはじまり、SAMSUNG の安価な Gear VR はひと足先に月間ユーザー数100万を突破、今年10月には Sony が PlayStation VR を発売予定と、2016年はまさしくVR元年といえます。

しかしその一方で、キラーコンテンツといえるVRならではの使い途や楽しみ方はいまだ観えてこないのが現状です。

正直な話、新しいビデオ視聴やゲーム体験といったひとり遊びだけでは私たちの生活を変えるインパクトも利便性もないでしょう。

先週、VR業界で注目すべき動きがありました。

それは、VRの技術開発及びコンテンツ配信を手掛ける NextVR が、スポーツの実況中継に続き、ライブやコンサートを3Dでストリーミング配信するための契約を大手音楽プロモーター企業と結んだというのです。

つまり、贔屓のチームを応援したりロックバンドの演奏やDJプレイで踊り明かしたりする世界中のお祭りをどこでも疑似体験できるようにしようというのです。

これは、繋がりを常に欲する私たちには YouTube の動画をひとり静かに観るのとは根本的に違う体験です。

さらにいえば、VR業界に起きているこれらの動きは、VR技術の現時点での普及レベルが、6、70年前のテレビと似た状態にあることを窺わせます。

つまり、極少数の動画配信者と、ポツポツと生まれてきた多数の動画受信者です。

半世紀後を生きる私たちは、インターネットと動画共有サーヴィス、そして、スマートフォンを筆頭とする安価なモバイルビデオカメラの普及により、動画を作るひと、送るひと、観るひとの数と図式が様変わりしたことを知っています。

想像してみてください。

離れ離れの友だちや恋人から近況報告のVRレターを受け取り、見知らぬ異国のひとたちと憧れの地でお祭り騒ぎをし、仮想空間のアバター同士で会議したり冒険したりする未来を。

何万年、何百万年もひとや動植物との繋がりを貪欲に欲してきた人類は、VRもまた、私たちの繋がりのためのより便利で強力なメディアとなることを要求するでしょう。

今回ご紹介するのは、アメリカ東海岸のミュージシャン Dan Deacon 。

コンピュータ音楽で学位をとり、現代音楽の作曲やコンサートもこなす彼らしく、Deacon の楽曲はミニマルなループの重ね合わせで複雑に構成されながらもポップな愛らしさがあります。

また、ライブパフォーマンスでは、もみくちゃにされるような距離と密度で掛け合いをして盛り上げることでも知られます。

彼もまた、人間が繋がりを求めてやまない動物だと知る音楽家なのでしょう。

京都スタッフ 緒方勇人
http://engineerism.com