テクノロジーが幸福を壊す?

テクノロジーの未来を考えるこの連載、早速ですが、今日の音楽を紹介しましょう。

ひょっとしたら、ゲスト出演の豪華さと衝撃的なネタで日本でも少し話題になった音楽動画なので、みなさまの中にもすでに大笑いされた方がいるかもしれません。

ニコニコ動画の方は歌詞の和訳付きなので会員の方はぜひ。

いかがでしたか?

このミュージックビデオ、もともとは、サタデーナイトライブというアメリカの歴史あるバラエティ番組のショートコンテンツとして放映されたもので、企画制作・出演は、人気コメディトリオの The Lonely Island 。

下ネタ満載でユーモアの過激さが特徴の彼らのミュージッククリップですが、超有名タレントや音楽家たちも全力でお馬鹿な役柄に体当たりしたりカメオ出演したりしていることも人気の秘訣です。

たとえば、レディー・ガガやリアーナ、ニッキー・ミナージュなども客演参加し、甘い声とマスクで歌や映画やダンスにと大活躍のジャスティン・ティンバーレイクも、グループリーダーのアンディ・サムバーグとホットな男の友情をホモっ気たっぷりに(3回も!)演じています。

もう1曲紹介しましょう。

人気ポップバンド Maroon 5 のアダム・レヴィーンと、今や世界のトップラッパーに駆け上がったケンドリック・ラマーが客演のこちら、タイトルの”YOLO”とは、数年前にアメリカの若者たちに大流行したスラングで、”You Only Live Once”(人生1度きりだぜ!)の略。

まあ、真に”YOLO”な生活とはこういうものですよね。

ところで、彼らがフェイクラップと自称するお笑いのネタを初めてみせたのは実は自主制作のオンライン動画でした。

というのも、劇作、映画、パフォーマンスと、進学先の大学ではそれぞれ別個にキャリアを追いかけた彼らはもともと同じ高校の親友同士で、ザ・ロンリー・アイランドと名付けた彼らの安アパートでは3人揃っての活動を目指していたのです。

当然、何の実績もない彼らが、ましてやグループとして仕事をハリウッドで得ることは大変難しく、結局、同居人のミュージシャンやメンバーの弟のIT技術者の力を借りて、自主制作のフェイクラップ動画を、第3者による作品の自由な再使用を認めるクリエイティブ・コモンズのライセンスとともに自身のウェブサイトに公開したのでした。

これが、15年前、2001年の話。

そして、ネットユーザーを中心に数年かけて人気と知名度を高めていった彼らは次第にテレビの脚本とパフォーマンスの仕事を貰い、さらにはそれらのコンテンツが今でいう「バズ」を生むことでネットの人気をもっと得るという好循環に入った彼らは遂に、コメディ業界で最も有名な製作チームのオーディションを受けるために3人揃ってマンハッタンに飛んだのです。

サタデーナイトライブの成功の後、映画やドラマやミュージックビデオの製作、あるいは授賞式の司会などをメンバーが引き受けながら、グループとしてはフェイクラップの動画とアルバム製作で唯一無二の存在感を今のエンターテイメント業界でますます強く放っています。

今でいう YouTuber の元祖といえる彼らはまさしくインターネット時代の寵児といえるでしょう。

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引用元:The Lonely Island Debuts In Top 20 On Billboard Charts 

テクノロジーと私たちが呼ぶものには、好むと好まざるとに関わらず、常にある種の革命思想が駆動しています。

それは、電磁気学や熱力学を用いた産業革命以降に発明された数々の機械にも、ITと略される情報通信機器やサーヴィスにも共通していえます。

たとえば、製造業の機械化は、大量生産可能な工場体制だけでなく、熟練労働者と非熟練労働者の垣根を低め、未熟な労働者の地位を上げました。

ひとつの技に精通するよりも、機械の適切な使い方を覚える方が、大抵の場合、より速く、より正確で、圧倒的にカンタンだからです。

また、日本人の暮らしに浸透した twitter にも革命思想がパーソナルパブリッシングとして息付いています。

それは、共同創業者のエヴァン・ウィリアムスが、twitter の前には、ブログツールの先駆けといえる blogger を、後にはその後継といえる Medium を起業していることからもあきらかでしょう。

結局、機械化と情報化が私たちにもたらしたもののひとつは物事のプレイヤーの増加です。

私たちの移動スピードが速くなり、繋がり方がより緊密に、より拡大し、ひと昔まえでは少数の選ばれた組織や人間でないとできなかった様々なことが、時間的・経済的に(学習の苦労を惜しまなければ)きわめてカンタンに実現できるようになったのです。

パンのお店が日刊ペースのメディアをものの数ヶ月で製作し運営する未来をいったいだれが想像したでしょうか?

テクノロジーのおかげで、私たちはさまざまな物事から自分の趣味に本当に適ったものを選べるようになり、時間とお金をさほどかけなくても(学習の苦労を惜しまなければ)新しいフィールドに新規参入できるのです。

これはパラダイスである反面、ストレス地獄と呼ぶべき今の状況を生んでいるでしょう。

今日の神経生理学によれば、私たちの脳が大きなストレス反応を誘発させられる状況とは、新奇であること、不確実であること、制御不能であることのいずれかであることを様々な実験があきらかにしています。

業界内のプレイヤーの数が増えれば増えるほど、常に新しい事態が、予測も、コントロールもできずに起こるでしょう。

また、人類史上初のさまざまな可能性の輝かしき海に開かれた私たちは、同時に、数多くのことを学び、競争し、断念し、挫折し続けることが、地球規模のプレイヤーの多さからある意味で定められてもいるのです。

結局テクノロジーは私たちを不幸せにしたのでしょうか?

しかしそれは、また別のお話。

最後にもう1曲紹介して終わりましょう。

ようこそ、現実世界へ。

京都スタッフ 緒方勇人
http://engineerism.com