続・経営の話。3.

前回のつづき
『パンという時間のコストが高い上に単価の低いものを扱う場合、今後維持継続していくための方法として個人的には今のところ二択しか思いつきません(人を雇用することが前提の話です)。一つは、規模(面積や設備)を拡大して生産性を上げる。もう一つは、価格を上げていく。ぼくが目指しているのは前者なのですが、個人店規模のパン屋を選択する場合、後者しかない気がします。当然どちらを選んでもそれぞれリスクはあるのですが、ぼくが後者を選択しない理由は、また次回。』

結論から書くと、個人店規模でのパン屋しかできないのであれば、ぼく自身はもう新たにパン屋をしようとは思いません。理由は、いろいろとあります。
まず事業として営んでいる店側の視点から書くと、店を維持継続するための必要経費、それも外的要因による部分の増加がとても大きく、今後もそれは増え続けると思って間違いないということがあります。
年々最低賃金が上昇している上に人手不足もあって、9月の全国のアルバイトの平均時給が1000円を超えたという記事も目にしました。これに加え、社会保険料や厚生年金といった法定福利費も年々上がり続けていますし、他にも原材料費高騰などの分も含め、こういった増加分をどこかで吸収しないと、ただでさえ低い利益率が圧迫されるので経営は当然行き詰まることになります。

これはパン屋さんに限らず飲食業界もみなさん同じだと思うのですが、原材料費の高騰云々よりも実際には年々上がり続ける法定福利費を含めた人件費コストによる利益圧迫の方が大きいと思います。
本来なら毎年のようにこの人件費分も価格に反映させる必要があるということになると思うのですが、実際にはそういうわけにもいきません。
値上げの理由として ”原材料費高騰のため” 、”法定福利費改定に伴う人件費高騰のため” というのは、至極当然のことと思います。こう書くと「事業所としての努力(企業努力)は、しないのか?」という声が聞こえてきそうですが、ぼくの頭で考える限り “個人店規模のパン屋さん” では価格を上げる方法以外には不可能です。
繰り返し書いてきているように現場の職人さんの能力などによって若干の差はあれど、規模(面積)に対して製造量や生産性がほぼ決まってくる以上、個人店規模、ミニマムな設備、人員では売り上げの上限は思いのほか低い位置で止まることになります。
大きな規模でされているパン屋さんでもない限り、恐らく個人店規模のパン屋さんの収益構造は何十年も昔から基本的には変わっていないと思います。また個人店規模で現実的に導入が可能な設備や、その性能も同様だと思います。
収益構造や設備の性能による生産性は何十年も変わらないのに一方では、お店を取り巻く環境だけは何十年どころかこの十数年の間にも劇的に変わりました。競合店は増え、人材は不足し、原材料費や人件費(法定福利費なども含む)は年々高騰、労働環境や労務に関する制約も厳しくなっていく一方です。これらはすべて増え続けるコストです。
人材不足やコストは増え続けているのに生産性や収益構造がほぼ変わらないのであれば、利益は年々減っていき維持継続が困難になるのは当然です。

お店(事業所)が年々増加するコストを吸収し維持継続する方法があるとすれば、100%の売り上げの総量(額)を伸ばす以外に方法はなく、そして売り上げを伸ばす方法としては、三つしかないとぼくは考えます(正確には二つです)。
一つ目は、規模の拡大(設備や面積)によって生産性を上げる。二つ目は、コスト上昇分を価格に転嫁する。三つ目は、低い生産性を長時間労働によって相殺する。
個人店規模を選択した場合、まず一つ目が消えます。三つ目は、これまでこれを正当化するために “修業” という言葉を恣意的に使われることが多かったと思うのですが、今の時代背景や人口動態などを考えた場合、これを選択する事業所に未来があるとは思えません。またこの三つ目は恐らく法律にも抵触しますから ”職人仕事だから” と、昔のようにある程度見て見ぬ振りをしてもらえた時代と違い、それが “職人仕事” であっても今後は年々厳罰化されて行くことになるはずなので選択肢には入らないことになります。

結果、 ”パン屋の生産性は厨房の広さに比例する”  とぼくは考えるので、個人店規模の限られた面積、それに伴う限られた設備、人員では生産性や製造量を劇的にあげることは物理的に不可能ですから、それでも上昇し続けるコストを吸収しながら維持継続をしていこうとすると個人店規模の場合、どうしても価格を上げるという方法に行き着くことになります。

つづく

 

続・経営の話。1.
http://lepetitmec.com/archives/nishiyama/11517/

続・経営の話。2.
http://lepetitmec.com/archives/nishiyama/11611/

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。