今夜、すべてのバーで 5.

前回のつづき
今では、すっかりお酒を飲むことを諦めたんだけれど、そういえば、いつからぼくはお酒を飲むことを諦めたんだろうと思い返すと、それほど昔のことでもないような気がする。

新宿に店を出して間もない頃、ワインオタクのバイヤーさんに誘っていただき、ワイン会に参加させていただいたことがある。バイヤーさん曰く、「絶対に大丈夫です。ビオワインですから。」ということだった。恐る恐る飲んでみると、驚くことに本当に飲むことができた。それまでといえば、命がけで飲んだとしてもグラスにワイン1杯が限界だったのに、何と2杯も飲むことができた。もうこれは、ぼく的には “浴びるほど飲んだ” という量だし、ぼく基準で考えれば、致死量と言ってよかった。さらに驚くべきは、お酒を飲んでいるのにまったく頭痛にならないという初めての経験だった。バイヤーさんのお話によると「恐らく頭痛の原因は酸化防止剤のせいですから。だからビオワインなら大丈夫なんです。」らしい。
ワインの良し悪しが分かるような高尚な舌をぼくが持っていないため、正直なところ美味しいとまでは思えなかったけれど、とにかくぼくは、”お酒が飲めたということ” が嬉しかった。だから、かなり浮かれて2杯も飲んだんだと思う。
とはいえ、飲んでいるものがアルコールであることに違いなければ、ぼくが下戸であることも変わりないので、簡単に酔っ払う。それでも頭が揺れはするものの意識はしっかりとあるし、眠くなるわけでもなかった。

昔、勉強のために訪れていたフランス料理屋さんのランチには 250mlくらいのカラフェ入りワインが付いていて、”せっかく付いているんだし、これも勉強だし” と思い無理をしてグラス1杯は飲んでいたら、いつも帰るころにはフラフラだった。市バスに乗って帰ろうとすると、気づけば家とは全然違う方向にあるバスの操作場(車庫)まで連れて行かれていたといったことも3度、4度はあった。そんなぼくがワインを2杯も飲み、それでもちゃんと間違いもせずに新宿三丁目の駅で降りていた。自分でもこれはすごいことだと思った。
ところが、やはり浮かれていたんだと思う。駅の階段を上がりきる一歩手前で、ぼくは階段から転げ落ちた。かなり痛かったし、周囲の方も駆け寄ってきてくださったので結構な段数を落ちたんだと思うんだけれど、それでもその時のぼくは笑っていた気がする。

つづく

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。