今夜、すべてのバーで(最終回)

前回のつづき
ぼくの数少ない親友の1人が、もうすぐ東京でバーをオープンさせる
5年ほど前、共通の友人である凄腕パティシエの田頭さんに紹介され知り合った彼は、とてもとても個性的な人だった。
その日、新宿伊勢丹さんでの催事の最終日を迎えられた田頭さん、スタッフさんとの会食の約束をしていたぼくは、新宿にあるトラットリアへと向かった。着くと個室に案内され、そこで田頭さんから「ぜひ紹介したい面白い友人がいるんです」と伝えられた。しばらくすると、仕事を終わらせ駆けつけてくれたのが、もうすぐバーのマスターになる佐伯さんだった。彼は「以前からプチメックさんの大ファンなんです。お会いできてとても嬉しいです。」と恐縮至極なご挨拶をしてくれた。話を聞けば聞くほど面白い人で、経歴から何から何までどこを切り取っても、ぼくがこれまでに知り合ったことのないタイプの人だった。
途中、彼が席を立たれ戻ってこられた際に、いきなりこう言われた。

「今日はお会いできてとても嬉しいので、1曲歌っても良いですか?」

唖然とするぼくの横で、田頭さんとスタッフさんはニコニコされている。だって、そこはカラオケボックスじゃなくて、イタリアンのお店なんだから。
「あの・・・お店の方は大丈夫ですか?」と訊くぼくに、「はい。いま、許可をいただいてきました。個室なのでドアさえ閉めていただければ、とのことでした」。

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結局、1曲で終わらなかったのは、ぼくが次々とリクエストをしたためだった。
もののけ姫や宇多田ヒカルさんの歌などをアカペラで披露してくれた彼の歌声を初めて聴いたぼくは、鳥肌が立っていた。

「この人は一体、何者なの?」

なんと、彼は4オクターブもの声が出るらしい。また、ここでは割愛するけれど、歌に関して過去には驚くような実績もある人だった。
数年前、「しばらくLAに行くので、その前に一度、西山さんのお店でライブをさせてもらえませんか?」と彼から言われたことがあった。ぼくは二つ返事で承諾し、チケットを出して有料のライブにするのかを確認した。うちの店で音楽のライブをやる場合、定員は約50名になる。これを有料ライブでやるとなると、音楽を生業にされている方々であっても事前に告知などをちゃんとやらないと定員になるまでに時間がかかる。ところが彼からの返事は、予想外のものだった。

「有料でやるつもりですが、告知とかは要りません。周りの方々から『やってよ』と言われているので、知り合いだけで少なくとも80名から100名にはなると思います。だから減らさないといけないくらいになるはずですから。」

いくら歌が上手すぎるとはいえ、プロの歌い手でもなければ無名といっていい彼にそれだけの集客力があるというのは半信半疑だった。ところがライブ当日、フタを開けてビックリ。著名な芸能人の方からお祝いの花が届くわ、お客様は定員をはるかに超えるわの大盛況だった。本当に不思議な魅力をもった人だ。

彼は、とてもやり甲斐のあるお仕事を最近までされていたんだけれど、あの新宿のイタリアンで初めてお会いした時から「ぼくが最終的にやりたいのは、バーなんです。だから何年後かには、バーをやっていると思います。」と話されていた。
そして、いよいよそのバーの内装工事がはじまった。
佐伯さんのお店なら、ぼくも通わせてもらえそうだ。ただし彼の交友関係は、アッと驚くような人たちが本当に多いし(お店のロゴデザインをされた方もとても著名な方です)、とても人気者の彼のことだから、お店も人気店になるに違いない。下戸のぼくは迷惑にならないタイミングを見計らって行かねばならない。

 
もうすぐ『今夜、外苑前のバーで』という日がやってくる。

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。