“小さくて強い店” を考えてみた10.

前回のつづき
そういえば先日、楽天の三木谷さんが「ベンチャー企業は労働基準法の適用除外にするべき」といったことを発言されて物議を醸していた。
ぼくは “これくらい空気を読まない人じゃないと、きっと世の中を変えることなんてできないんだろうなぁ” と妙な感心をしていたんだけれど、それにしても今のこの空気の中で、これを言っちゃう三木谷さんはすごいなぁ。
賛否両論あるとは思うけれど(恐らく否定の方が多いと思う)、基本的にはこの意見に反対であるぼくにも、ちょっとだけ気持ちがわかるような部分もあったりする。もちろんうちは零細企業で「ストックオプションを付与するんだから」なんて会話とはこの先もまったく縁のない規模なので、そこの部分じゃないんだけれど。
”業種別で、もっと細かく税率を変えてくれよ” と無駄なことを以前は思ったこともあった。いわゆる職人仕事は生産性も利益率も低いんだから、それらの効率が良い異業種と同様に職人仕事を当てはめないでよ、ってことなんだけれど、国がそんな配慮なんてしてくれるはずもない。それにこんなことを言い出すと、三木谷さんの言われるところの “ベンチャー企業” の定義は?というのと同じで、”職人仕事” の定義は?といった抽象的で線引きがよくわからない問題が出てくることになる。

それにしても巨大企業を率いている三木谷さんの体育会系発言は、ぼくらの業界に根強くはびこる 「職人仕事だから、飲食業だから、長時間労働は致し方なし」といった風潮と大差ないように思えて仕方がない。
社員にストックオプションという飴をぶら下げているベンチャー企業であれ、小さなお店であれ、そこで働いているのは生身の人間に違いはない。
昔、間違った仕事の仕方をしてきたと猛省するぼくが経験則として一番学んだことは、”人間が生ものである以上、物量を精神力で凌駕することはできない” ということだった。だから今回の三木谷さんの発言に限っていえば、やはりぼくは共感ができない。

ドイツの指導者だったビスマルクさんは、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残されているらしい。良いこと言うなぁ。そこで先日、読んで面白かった本を1冊。

「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」

軍事的合理性よりも情緒主義、人情論、情報軽視という現場体験による主観的な戦略策定によって敗戦した日本軍を研究した組織論。
精神論では物量に勝てないことが歴史からもわかる内容なので、”無理をしてやり通そうとする人” や “職人だから、そういうものだから” で片付けてしまいがちな方は、身体を壊される前に一読をお勧めする。

“「戦機まさに熟せり」、「決死任務を遂行し、聖旨に添うべし」、「天佑神助」、「神明の加護」、「能否を超越し国運を賭して断行すべし」などの抽象的かつ空文虚字の作文には、それらの言葉を具体的方法にまで詰めるという方法論がまったく見られない。したがって、事実を正確かつ冷静に直視するしつけをもたないために、フィクションの世界に身を置いたり、本質にかかわりない細かな庶務的仕事に没頭するということが頻繁に起こった。”

まるで現在の個人の勘や経験に委ねている職人仕事の現場を指しているみたいだ。
それにしても「空文虚字の作文」とは言い得て妙だなぁ。
“よくわからない精神論” や “業界でしか通用しない常識” もまた、「空文虚字の作文」なんだと思った。

つづく

«                    »

西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。