“小さくて強い店” を考えてみた11.

前回のつづき
もう少しだけ余談を。
ぼくらの業界(小規模の飲食業全般)には “修業” という建前がある。だからこれまでは労働時間やそれに伴う生産性といったものを特に問題として捉える必要もなく長年やってこれたんじゃないかと思う。そう考えると、それなりに歴史があるはずの業界にあって、低い利益率や生産性といったものがこれといって改善される様子もなく今日まで来ていることも腑に落ちる。つまり、長時間労働や公休日が少なかったり、最低賃金さえ怪しいような条件といったものが、精神論などの暗黙の了解によってまかり通っている限り、恐らく生産性が上がるなんてことはないんだと思う。
よほど考えている人でもなければ、作り手(職人さん)だって面倒なことを考えるよりも得意なことである “良いものを作ること” だけを考え、精神論を語っていた方が楽なんだから。
職人さんにとって、長時間労働や休みも取らずに働くこと、なんなら清貧であることが美徳であるかのような風潮が確かに昔はあったんだと思う。冷静に考えれば、明らかに悪弊なんだけれど、それに対しみんなが無頓着なおかげで “必要悪” としてまかり通る平和な時代でもあった。
ところがこの数年の間にも時代の空気は完全に様変わりをし、それが職人世界である飲食業であっても休みをちゃんと取るのはもちろんのこと、今や長時間労働は絶対悪となった。
もともと一般のお仕事と比較すると労働条件などの面で乖離のある業界なのに、時代の急激な変化によってその開きが益々大きくなったものの、それにまったくというほど順応できずにいるのが業界の現状なんじゃないかと思う。

ジャンルや業態を問わず喧伝される人手不足の話題にしても、もちろん少子化や労働人口問題も間違いなくあるけれど、それ以前に “職人仕事だから” といった自尊心が免罪符のようになっていたことにも原因はあったんじゃないかと思う。
同規模、同業種で人材を取り合っていた時代はまだ良かったけれど、これだけ人口が減少してくると人材確保のための競争相手も、きっと今以上に異業種にまで及ぶことになる。そうなった時に戦えるだけの備えがあるのかと考えた時に、”良いものを作っているから” “美味しいものを作っているから” といった昔ながらの自尊心や自負心くらいしかないのであれば、今の時代にそれだけで勝算があるとは、ぼくには到底思えない。

こんな時代であってもパンやお菓子、料理をやりたいと思っている人というのは、実は潜在的には結構いるんじゃないかとぼくは思っていて、実際には「やりたいけれど、その条件では・・・」「その環境では・・・」というのが本当のところなんじゃないかと思っている。
売り手市場のはずなのに人手不足が解消されないというのは、単純にその業界の環境や条件が悪いから。そしてそれは “その業界に魅力がないから” とも言える。

職人さんも、デザイナーさんも、アパレルや小売り、流通に携わる方々・・・どんなお仕事であっても、その立ち位置によって物事の見え方が主観的になるのは当然のことなんだけれど、会社やお店(事業所)がやっていることというのは、俯瞰すればすべてビジネスであり、そういった意味では扱っている商品やサービスが、パンやお菓子、料理であれ、それが服やデザインであっても本質的には変わらない。
だから労働環境や労働条件といったものを考える際、今の時代に「職人仕事だから」「○○だから」「そういう業界だから」といったことを言っている時点で、ズレている気がする。
それを言い続けるのはもちろん自由なんだけれど、その会社やお店を選ぶかどうかは結局、働く側の人たちなんだから。

つづく

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。