小さくて強い店を考えてみた13.

前回のつづき
昔、たまたま観ていた番組か何かで、当時イケイケだったあるIT企業の社長がインタビューをされているのを目にすることがあった。
次々と会社を買収し拡大されていた彼にインタビュアーが「なぜ、それほど早急に会社を拡大しようとするのか?」といった質問をされたのに対し、その答えはこれ以上ないほどとてもシンプルで明快なものだった。

「倒産リスクを下げるため。」

観ていたぼくは、「そりゃそうだ」というとてもシンプルな共感を覚えた。
ぼくらのやっていることというのは仕事の性質上、IT企業のようにイケイケで拡大していくということはまずあり得ないんだけれど、それでもぼくが拡大を志向する理由と本質的には同じだった。
ぼくの場合、もともと飲食業を選んだのが、あんな店もやりたい、こんな店もやりたいといろんな店をやりたくて、それを目的に今の道を選んだので多店舗化へ向かうのは自然なことだったんだけれど、やっていくうちに必然的にこの社長と同じような理由になっていった。

面白いなぁと思うのは、あんな店もやりたいし、こんな店もやってみたいと “夢” を話すと、「夢があって良いですねー」「楽しそうですねー」と多くの方々が共感してくださるんだけれど、「そのためにも稼がないといけない、利益を出さないといけない」と言った話をしたり、”拡大” という言葉を使った途端に反応が一変したりすることがある。つまり、店舗を増やすことに対しネガティブに捉えられることが多い。
拡大というのは、何も店舗数が増えたり面積が増えるというわかりやすいことだけでなく、一店舗一店主主義のお店や小さなお店であっても昨年より今年、今年より来年と売り上げを伸ばすことを目標にするのだって拡大の一つに他ならないのに、抽象的なことや感情論、物語性といったものが好きな人たちというのは、どうも思い込みや偏った見方をされる傾向にあるように思えてならない。
多店舗化や移転拡大などに挑戦をし、失敗でもした日には、こういった人に限ってしたり顔で「手を広げるからだ」と言われることが多いように思うんだけれど、「手を広げたから失敗した」なんて単純な話なのであれば、世の中にある多店舗化されても上手くいっているお店や会社が説明つかないことになる。

昔、雑誌などで “一店舗一店主主義” と何度も公言されていながら、数年後には多店舗化へ方針転換をされたオーナーシェフが何人もいらっしゃる。面白いのは、それ以降にお店をされたあるオーナーシェフが、多店舗化へ方針転換をされたシェフのことを批判的に話されていたのに、数年後にはその批判していたシェフ自身が2軒目をオープンされていたという笑い話もあったりする。
“一店舗一店主主義” を公言までされていたシェフが多店舗化へシフトされるのには、それぞれいろんな理由や事情があったんだと思うけれど、その時には “それがベター、それが必然なこと” と判断されたからこそ方針転換をされたんだと思うし、その根底にはぼくと同じように「倒産リスクを下げるため。」といった考えがあったんじゃないかと思えてならない。
多店舗化へ挑戦したもののその後、撤退を余儀なくされたり(うちも理不尽ながら1軒なくなるしね)、縮小されたシェフもいらっしゃるけれど、それは無責任に言われる「手を広げるからだ」といった単純な話でなく、複数店舗になっても1軒目の成功されたやり方をそのまま踏襲しようとされたりと、規模に合わせたやり方を整備できなかったことなどに原因があるんじゃないかと個人的には思う。

そういえば、ぼくが東京へ店を出すことが決まった際、不安だった(この “不安” は、遠隔地に店を出すことによる二重生活のこと)ぼくにわざわざ電話をくださり、多くのアドバイスをしてくださったスターシェフがいらっしゃった。その際、話の後半にはこう言われたことを今でもはっきりと憶えている。

「西山くん、店を増やすと批判したり好き勝手なことを言う奴が必ず現れるけど、そんなもん気にしなくていいよ。そういう奴には、“俺らは、そこを通ってきた上でここまで来たんやわ” って言ってやればいい。」

ぼくはこれまで自分の考えがあって選択をして来たので、この手の批判をされようが本当に何とも思わないんだけれど、”こんな著名なシェフでも多店舗化でかなり叩かれたんだなぁ” と思ったものだった。

つづく

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。