“小さくて強い店” を考えてみた15.

前回のつづき
ぼくが「小さくて強い店」を懐疑する理由、それが特にパン屋さんの場合、小さなお店が弱いとまで思う理由を書いてきた。その思いつくリスクやデメリットはまだ他にもあるけれど、あれもこれも書き始めると終わらなくなっちゃうので話を少し変えてみる。

借入をし、1人、2人といったギリギリの人数で “労働集約型の典型であるパン屋さん” を始められた方というのは、数年も経てばそれが決して気楽なものでないことも、お店を始めること自体は実はそれほど難しいことでなく、本当に難しいのは維持継続をしていくことだというのがきっとわかると思う。
今の時代に、これから小さなパン屋さんを始めるということをぼくは決してお勧めしないけれど、もしも ”それでも、ぼくが小さなパン屋さんをするなら” ということを友達のお店などを思い浮かべながら考えてみる。

少し前に “小さなお店でも強いパン屋さん” として伊原さん(ツオップ)、杉窪さん(365日)、片根さん(カタネベーカリー)のお店を挙げた。杉窪さんのお店は多店舗化へシフトされているけれど、伊原さんと片根さんは一店舗一店主主義を貫かれている(カフェはされているけれど)。
伊原さんは以前、多店舗化について「自分には向いていないから」と謙遜をされて仰っていたけれど、決してそうじゃなくて、そもそも “多店舗化する必要がない” というのが正しいんだと思う。小さなお店たった1軒で、普通の個人店規模のパン屋さん3軒~4軒分を製造し売られているんだから、わざわざ多店舗化をする必要がない。また多くのスタッフさんを抱えてられるので労働環境を良くしようと思えば、シフトを工夫することで適応することも恐らく可能になるんだと思う。
どちらのお店も見た目が小さなお店というだけで、その業績は大きく、単に小さなお店というのとは似て非なるものと言えるし、小さいから強い店なのでなく、”小さいのに強い店” だということがわかる。

街の小さなパン屋さん、一店舗一店主主義のお店として、伊原さんや片根さんのお店が一つの理想形、完成形なんじゃないかと個人的には思っているんだけれど、仮に相応の技術があったとして、それだけであれほどの大繁盛店をつくれるかといえば、やはり難しいと思う(もちろん、ぼくにもそんな能力はない)。
技術があることはもちろんとして、お店を始められた時期といった時代背景や場所の違いもあるし、またそれらに適した商品構成やあれだけの製造量を可能にするための段取りや仕組みといったものを考え抜き実行されてこられたからこその結果だと考えると、技術さえあればできるといったことでもないんだと思う。だから数え切れないほどのパン屋さんがある中で、これほどバランスの良いお店というのも稀有な存在なんだと思う。
それに、どちらのお店も大前提として多くのスタッフさんを雇用されているからこその好循環だということを考えると、競合するお店も多く、人手不足の今の時代に、これから始めようとされるお店がそれだけのスタッフさんを確保するというのも現実的には困難に思えるし、そもそも “できるだけ雇用をせずにギリギリの人員でやろう” と考えられている時点で、ツオップさんやカタネベーカリーさんのようなお店を目指すといったことは恐らく不可能ということになる。

つづく

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。