“小さくて強い店” を考えてみた27.

前回のつづき
ぼくが言うところの “飛び道具” をサンプリングに例えて書いたけれど、当時から言葉で説明できるほど確信を持ってそれをやっていたのかといえば、もちろんそんなことはない。
そもそも店を潰しかけていたくらいなので余裕もなく、出尽くした感のある業界でどうやって他のお店との違いを出そうかと、やってみたあれこれを振り返ってみた時に、”あぁ、そういうことだったんだ” と思ったに過ぎない。
ただ、やっていたことが ”邪道(飛び道具)だなぁ、間違っても王道のパン屋じゃないよなぁ、職人としてはいかがなものか” と思っていた当時のぼくに、 ”店としては、これもアリなんだ” と思わせてくれたお店があった。それがタルトで有名なキルフェボンさんだった。

キルフェボンさんはお菓子屋さんで、一応、ぼくはパン屋といった違いもあるし、もちろんキルフェボンさんがぼくのように邪道という話でもない。
とはいえ、大手のお菓子屋さんは別として、ぼくにとっての “お菓子屋さん” というのは、街場の個人店のことであり、もっといえば長年修業を積まれた職人さんが独立をして経営されているお店のことであり、もっと厳密には “フランス菓子やドイツ菓子を作られているパティスリー、コンディトライ” のことを指した。そういった視点で観ると、やはりキルフェボンさんは異質なお菓子屋さんに映った。

昔、そんなキルフェボンさんのタルトが大ブームになり隆盛を誇った時代があった。既に王道なお菓子屋さん、技術の高いお菓子屋さんがたくさんある中で、新興勢力とも言えるキルフェボンさんのタルトがとても売れ、そして店舗を拡大されていった。
勝因という言葉が適切かどうかはわからないけれど、あの時代のキルフェボンさんがそうだったとすれば、それは職人さんによる技術云々というよりもブランディングの妙に尽きると思ったし、その後、キルフェボンさんの前身が静岡の雑貨屋さんだということを知った時には腑に落ちた。
語弊があると申し訳ないけれど、キルフェボンさんのされていることというのは、「美味しい生地+美味しいクリーム+美味しいフルーツ = めっちゃ美味しいタルト」だとぼくは思っていて、素材にはこだわっていらっしゃるけれど、いわゆる職人さんたちがこだわり競い合ってられるような技術的な部分というのは、恐らくそこまで重要視されていなかったんじゃないかと思う。
この話の23. の最後で、ぼくはこう書いている。

『 素材などの面だけでなく技術的な部分にしても、パンや料理、お菓子に限らず、職人さんと呼ばれる人というのは、良くも悪くも基本的にはプライドが高い。だから「あれは大したことない」「あっちよりこっちの方が」・・・
(中略)
それと同時に ”その差が本当にわかる人って、どれくらいいるのかなぁ” “その違いは本当にお客さんに伝わっているのかなぁ” と思うことも少なからずあったりする。その “わずかな差” が、いわゆる作り手の “こだわり” の部分なんだろうし、職人として大切なことには違いないんだけれど、そこに引っ張られ過ぎると意外と “お店としては” 上手くいかないことが多い気がする。』

当時、キルフェボンさんの躍進を見ながらぼくは、技術の高い職人さん同士がプロにしかわからないような “わずかな差” を競いあっている間に、異業種から参入してきたキルフェボンさんにかなりの需要を持って行かれたんじゃないのかなぁ・・・と思えてならなかった。キルフェボンさんのブーム以降、雨後の筍のようにあちらこちらに “なんちゃってキルフェボンさん” がたくさんできたことを考えると、もしかすると既存のお菓子屋さんからシェアを奪ったというよりも、キルフェボンさんが新しい需要を掘り起こしたとも考えられる。
技術を競い合うことや本当の意味でのこだわりなら大切なことだと思うし、どちらが正しいといった話ではないけれど、ぼく自身はこの時に “それでもやり方、方法はある” といったことをキルフェボンさんから学んだような気がする。

そういえばかなり昔、ぼくも取材をしていただいたことのある関西の女性ライターさんが専門誌の中で、「オーボンヴュータンが宇多田ヒカルなら、キルフェボンはモーニング娘。」と、余りにも言い得て妙な例えをされていたのを読んで唸らずにはいられなかったことを思い出した。

繰り返しになるけれど、どちらが正しいといった話でもなければ、みんながキルフェボンさんになる必要はもちろんない。だけど、技術的に高いお店を含め、この出尽くした厳しい時代にお店を始めるのであれば、技術や腕に自信があるといった業界視点だけでなく、アウトサイダー的な視点もあった方がいいんじゃないかなぁと思った次第。

つづく

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※ 写真のタルトは、うちのスタッフ・二部ちゃんが特注で作ったもの(ぼくには、こんな綺麗なタルトは作れません)。

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。