“小さくて強い店” を考えてみた29.

前回のつづき
比較的単価も高く効率が良いと思える飲食店でも、小さなお店である限りは強いとまで思えないぼくは、 ”小さなパン屋さん” を小資本(借り入れで)、新規で始めるというのは、正直今のところ選択肢の中にないし、恐らく今後もない。

ぼくが自分で店を始める際に料理屋でなくパン屋を選んだのは、その単価の低さが理由だった。単価が低ければ敷居は下がり、多くの方々に手に取ってもらえる確率が上がる。そこで美味しいと思っていただけたなら、単価の高いものに比べ来店頻度も高くなるだろうし、お客さんの数が多い分そこからの広がりも期待できると考えた。
昔、料理屋さんでお世話になっていた頃、ランチは入るけれど夜はゼロだったという日を何度も経験していたぼくは、単価の低いものを扱うことで経営が安定しやすいんじゃないかとも考えた。

ぼくの考えるパン屋さんの強み、良さというのは、この “誰にでも手に取ってもらえる” という敷居の低さであり、”圧倒的に多いお客さんの数” の部分だと思っているんだけれど、「今の時代に小さなパン屋をやりますか?」と訊かれれば、やはりぼくは他の商売を考える。これまでにも書いてきたように、設備投資の大きさや人の問題、時間コストの大きさ、それに時代背景といったこともある(ぼくが最初につくったパン屋は、19年前)。あくまでもこれらは “自分がリスクを取りパン屋を経営する” といった視点での話で、これがお客さん側の視点に立つと全く逆というほどパンは魅力的なものに映るからもどかしい。
最近でも取材をしていただくと、「パンは人気ありますよね、ブームですね。」と言われることが何度もあるんだけれど、ぼくは「人気ありますよね、でもブームなんですか?」と訊き返す。別にイジワルなんじゃなくて、ぼくの感覚としては「それならパンは、ず~っとブームが続いているんですね」ということになるし、それほど多くの方から魅力的に映るのがパンなんだという実感もある。

うちの新宿の店が閉店することを告知して以来、本当に多くの商業施設さん、不動産屋さんから誘致のお話をいただいた(ありがとうございました)。
1つの物件を残し、他のものは全て断念せざるを得なかったんだけれど、その理由はもちろん東京の地価(家賃)といった経済的な条件の部分もあるけれど、それ以前に厨房に必要な面積を確保することが困難という問題がほとんどだった。もどかしい・・・。

以前にも ”パン屋の生産性は厨房の広さに比例する” というぼくの考えを書いたけれど、これもぼくが小さなパン屋をやろうとは思わない大きな理由の一つと言って間違いない。小さな厨房でもやってやれないことはないけれど(といっても料理屋さんのように小さくはできない)それで始めてしまうと生産性は明らかに落ちるし、それが結果、長時間労働などの労働環境悪化を招くことになるとぼくは考える。ぼくらの業界に限らず、労働環境の改善や確実にわかっている労働人口の先細りに対応するためには、今後、設備の進化と導入に頼らざるを得ないことは明々白々なのに、小さな厨房では恐らくそれすらできない。

パンというのはとても人気(需要)があって、だから誘致してくださる商業施設さんからも熱心に求められるという本当に有難い状況なのに、いざ供給しようと考えると必ず “厨房面積” という物理的な問題が大きな壁となって立ちはだかる。この需要の大きさと、それを供給するための課題(労働環境の部分も含めた)の溝を改善しない限り、パン屋さんは今後厳しいなぁと個人的には思うし、ひいてはそれが今にも増して人材不足につながる問題であるとも思う。
パン屋さんというのは、本当にもどかしい業態だなぁ・・・

つづく

IMG_1951

«                    »

西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。