眼鏡

ついに人生初の眼鏡をつくっていただいた。といっても老眼鏡なんだけれど。

車の免許更新の際に検査をされる場合を除けば、最後にちゃんと検眼をしてもらったのが中学生の時なのか、高校生の時だったのか、それさえ記憶にないほど何十年も昔のことなのに、「目は良い方ですか?」とたまに訊かれることがあると、今でもぼくは「良いです。両目1.5です。」と決まって訊かれてもいない視力まで答えるほど目の良さには自信があった。

ところが40歳を過ぎたころから”どうも怪しい・・・"といった自覚を持ち始める。
それが顕著に現れたのが本を読んでいる時で、特に文庫本などの活字になるとどうも霞んでよく見えない。”これが噂に聞く老眼ってやつか・・・”と薄々は思いながらも、「いや、照明のせいに違いない」「たまたま目が疲れているだけに違いない」と自分に言い聞かせてきた。
きっと、自分の身体が衰えてきていることを認めたくないといった気持ちが無意識のうちに働いたんじゃないかと思う。
年々白くなっていく髪や最近は胃腸の調子が悪い日が増えたなぁといったことは、”あぁ、ぼくもおじさんになったんだな、身体って正直だなぁ”と、年齢とともに衰えていく身体の変化をすんなり受け入れることができたのに、なぜか目だけは受け入れようとしなかった。
先日、人生で初めて眼鏡屋さんでお世話になった際、待っている間に ”なぜ、ぼくは目の衰えにだけは抗おうとしていたのか?”といったことを考えていて、答えが見つかった気がする。

「老眼」、「老眼鏡」

この言葉が原因に違いない。
”誰だよ、こんな認めたくない様な的確な言葉を最初に使ったのは・・・もっと他に前向きな感じのする呼称はなかったのか?” ということなんだと思う。

ぼくの場合、40を過ぎてすぐくらいに小さな文字が読みづらくなり、また齢を重ねるにつれて酷くなっていったそれが老眼だということは、もう自明だった。
無線LANルーターなどの小さな文字で書かれたパスワードや、特におしゃれな名刺をいただいた時によくあるそこに書かれた小さ過ぎる文字を読もうとする時には、スマホのカメラアプリで拡大しなければ読めないほどになっていた。
スマホの文字を読もうとして、近づけたり遠ざけたりしている時間や回数が年々増えるとともに周囲にいるスタッフの笑い声も増えたし、近しい人からは「そろそろ眼鏡を買えば?」と何度も言われた。
それでもぼくが眼鏡屋さんへ向かおうとしなかった最大の理由は、Kindle の登場だった。
老眼になってあれこれと不自由に思う瞬間はあってもそれほど生活に支障が出るわけでもなく、ぼくにとっての最大の不具合は「本を読む時(特に文庫)」くらいだったので、もしや・・・と思い、Kindle を使ってみたら驚くほど活字が見える様になった。
ところが何年かすると、最近ではデジタルでさえ見えづらくなってしまい(拡大してまで読むのも面倒だし)、ついに ”眼鏡をつくろう”となった次第。
老眼だと自覚してから実に約10年が過ぎていた。

そんなタイミングで先日、佐藤奈々子さんからお隣りのミッドタウン日比谷の内覧会へお誘いをいただき、ご一緒させていただいた。
目的は、奈々子さんのご友人であるクリエイティブ ディレクターの南 貴之さん(先日、奈々子さんのライブをうちの京都の店で開催した際にもお越しいただいた)が有隣堂さんとコラボをされた HIBIYA CENTRAL MARKET さん。

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どのお店も素敵なんだけど、その中にお店の造りに一目惚れするほどのお店があった。
それが CONVEXさんという眼鏡店(南さんが北海道から連れて来られたらしい)で、ぼくはここでつくってもらおうと決めた。
後日改めて訪れ、とても丁寧なスタッフさんに検眼と説明をしていただき、何点かのフレームの中から選ばせてもらった。

眼鏡というものに特に興味もなく、老眼鏡に至っては ”そんなもの、ぼくには一生必要ないわ” くらいの気持ちで10年近くも抗ってきたぼくが、50歳を前にして初めて体験する、見る世界なんである。
とても親切で丁寧な若いスタッフさんを前に口にこそ出さないけれど、ぼくの内心は「見せて貰おうか。老眼鏡の性能とやらを!」だ。

試して、ビックリ・・・

「見えるぞ!私にも小さな文字が見える!」
もう気持ちは、ア・バオア・クー戦の時のシャアだった(実際には、スタッフさんに「驚きました・・・」と言って、アホの子の様な顔になってたと思う)。

この歳になって眼鏡の初体験をして高揚し、「レンズってどうなっているんですか?これ、何でこうなるんですか?」と、あれこれスタッフさんに質問していたぼくは、またアホの子の様な顔をしていたに違いない。

こんなことなら、もっと早く眼鏡をつくっておけばよかったなぁ。

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。