パンの名前の話。4.

ぼくは、プライスカードの日本語部分である名前(商品名)を、フランス語読みした時の音そのままにカタカナで表記していた。「クロワッサン」とか「パン・オ・ショコラ」とか。
だって、いくら「ここは、日本だから」とはいえ、クロワッサンを「三日月」に、バゲットを「杖(つえ)」という名前なんかにした日には、クロワッサンを目の前にしたお客様から「クロワッサンは、どこにありますか?」と訊かれかねないし、「そのバゲットを1本ください」と仰られる方はいらしても、「その杖を1本ください」という会話をパン屋さんで耳にすることがあるとはとても思えない。
やっぱりクロワッサンはクロワッサンだし、バゲットはバゲットとして定着しているんだから、無理に日本語にすることもない。

パンやお菓子に名前をつける際、どこまで音をそのままカタカナで表記したものにするのか、といったことは人それぞれだと思うんだけれど、ぼくはすべての名前をフランス語の読みそのままにしていた。つまり、商品すべての名前がカタカナだったことになる。

そんなある日、京都のFM局から取材依頼があり、番組の中でうちのパンをいくつか紹介してくださるということになった。
ラジオで紹介してもらえるなんて初めてのことだったし、それはそれは喜んで、絶対に聴き逃すまいとぼくは放送日や時間の確認を何度もした。
パン屋さんの多くは厨房でラジオが流れているお店が多いと思うんだけれど、うちも厨房ではラジオをBGMにしていたので、仕事をしながらその時を心待ちにしていた。
いよいよ紹介してくださるコーナーになり、少しラジオのボリュームを上げて聴き入っていたぼくは、パンの紹介のところで固まってしまう。
パンの名前を間違えられたわけでもなければ、発音が・・・なんて細かいことでもない。

DJの方がパンの名前を読まれた際、噛みに噛みまくられていたんである。

その時に選ばれたのは「きれいだから、華やかだから」といった理由で、デニッシュばかりだった。「Viennoise aux fruits rouges」、名前は読みそのままの『ヴィエノワーズ・オ・フリュイ ルージュ(赤い果実のデニッシュ)』を始め、みんなこの調子で付けた名前ばかりだったので、とにかく噛まれグダグダだった。

放送を聴きながら何だか申し訳ないような、居たたまれない気持ちになったぼくは、これがきっかけでその後、「栗とゆずのパン」や「じゃがいもパン」といった名前を付けるようになった。

 

宇多田ヒカルさんが出演されているサントリーのCMが流れた際、最後の「SWITCH&SPARKLING!SUNTORY!」という発音を聞いて、思わずこの話を思い出しちゃったので書いてみた。

つづく

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パンの名前の話。1. 2. 3.

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。