新幹線で見かけた中年の藤丸くん

先日、品川から静岡へ向かう際、もうどうにも眠くて仕方なかったぼくは微妙な距離と時間だとは思いつつ、寝過ごさない自信があったので新幹線で仮眠をすることにした。
起きているのか眠っているのか自分でもわからないくらいのちょうどいい気持ちになったタイミングで、横からカチャカチャカチャ・・・という音が耳に入ってきた。それがPCのキーを打つ音だとはすぐにわかったけれど、その驚きの速さにぼくは、 ”あぁ、きっとファルコンこと高木藤丸くんだ。THIRD-iからの要請を受けて日本の危機を救おうとしているに違いない。そういうことにしておこう。では、ぼくは仮眠をするので藤丸くん、がんばってくれたまえ。” などと思いながら見かけていた夢のつづきをと体勢を深くしたものの、どうにも眠れない。
あの・・・静かにしてもらえますか、ということではなく、その形容しがたいほどのタイピングの速さが気になって気になって仕方なかったんである。
それにしてもカチャカチャカチャという音が速い上に、一瞬止まることはあってもほぼ打ちっ放し。
迷惑どころか好奇心に変わったぼくは薄っすらと目を開け音のする方を目で追ってみると、ぼくのいる窓側の席から隣を一つ空け、通路側の席に藤丸くんはいた。
もちろんPCの画面に映し出されているものを覗き込むようなことはしないけれど、とにかくものすごい速さで親指を除く両手すべての指が動いている。ぼくの眠気は完全に消え去り、薄目のまま視線は手元に釘付けになった。

”同じ人間とは思えないよ、スゲーよ、藤丸くん” と思いながら、さりげなくその人を見てみると、まったく藤丸くんじゃなかった。
その男性、年の頃だと60歳前後に見える。
ぼくよりも上の世代の方でこれほどまでタイピングが速い方というのは、それがお仕事だと思って間違いないだろうし、それも「会社でPC使ってます」なんてレベルではなく、きっとライターさんのように文章を書くこと自体をお仕事にされているに違いないと思った。

ぼくなんて未だに文字を打つ時には左右それぞれ2本の指しか使えず、それも「えっーと・・・」なんてキーを見ながらじゃないと打つことができない。
昔、PCを使い始めたころには、コナンくんのタイピング練習用ソフトを買ってやろうとしたこともあったけれど早々に挫折した。
まぁ、ぼくは仕事柄どうしても必要なスキルというわけでもないし、今からまたコナンくんを引っ張り出してきて練習しようとも思わないんだけれど。

渋谷にあるレフェクトワールは場所柄、クリエイターの方や近所の会社の方が打ち合わせなどに使われることも多く、時間帯によっては右も左も前も後ろもと、どのテーブルでもノートPC(ほぼ全員がMac)を開いてられる光景をよく目にするんだけれど、これまでに中年の藤丸くん(仮名)ほど速いタイピングをされている人を見たことがない。ぼくの周りの人の中にはタッチタイピングのできる人もいらっしゃるけれど、やはり藤丸くんまでは速くないと思う。
それにしても速い。話し言葉と同等か、それ以上の速さなんじゃないかと思うその技術をぼくは羨望の眼差しで見ながら、そういえば以前、知り合いのライターさんがこんなことを話されていたのを思い出した。

「最近、PCを買い換えたんだけれど、メーカーが違うとキーの位置が若干違うの。ほんの数ミリの違いだと思うけれど、それだけでしっくりこないし、打つスピードが変わる。」

まるでスケートの選手が「ブレードが1mm変われば・・・」とか、野球選手が「バットの重さが数グラム変われば・・・」といった一流アスリートの話のように感じたんだけれど、何であってもやっぱり一流の方はすごい。ぼくなんかはまったくというほど道具にもこだわりがないから、これが二流、三流たる所以なんだろうと思えてくる。

それにしても新幹線で一緒になった中年の藤丸くん、あれだけタッチタイピングができればそりゃ新幹線の、それも通路側の席であってもPCを開いてカチャカチャやるよなぁ。
もしぼくにあれだけのスキルがあれば、さも「仕事をしてますが何か?」といった涼しい顔で、きっとこんなどうでもいいようなブログを書いているに違いない。
そして中年の藤丸くんの何がかっこいいって、その使われているPCがMacではなく、前時代的な印象を受ける厚みのあるノートPCだったということが、これまたかえってぼくにはかっこよく映った。

 

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西山 逸成

代表取締役製造補助

Le PetitmecとRéfectoireの隊長をやっています。